穏やかな日々
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はあまり得意ではなかったのだが、キャゼルヌ夫人の協力によって、今はそれなりのレパートリーを獲得しつつあった。
その日はフロルのリハビリも終えようとしていた、7月上旬のことであった。翌週にはカリンの10歳の誕生日が控えている。
イヴリンとカリンは先ほどから雑誌を見ながらきゃっきゃと騒いでいた。その横にはメスのシェルティー、エリィがべったりとカリンに付き添っている。
エリィは最初こそ、見知らぬイヴリンを警戒していたようだったが、今ではすっかり慣れたようだった。エリィは大人しい犬で、吠えることすら少ない。もっとも散歩には毎朝カリンと元気一杯に走っているので、健康には違いないのだが。
今ではカリンもイヴリンも、年の離れた友達のように仲が良くなっていた。一つにはカリンがませていた、ということだが、イヴリンの人格の根底が幼いというのも理由に挙げられるだろう。
フロルはそんな平和な景色を横目に、パスタのソースを作りながら、片手間にミルクプリンのブランマンジェを作っていた。ハイネセンは夏に向けてその気温を順調に上げつつあって、きっといいデザートになるだろう。
そんなところにとある珍客があったのである。
ドアベルが鳴った。フロルはキッチンの壁にもついている小型ディスプレイを見る。そこには学者然とした黒髪の大佐と、12歳ほどの亜麻色の髪を持った利発そうな少年が立っていた。
「おお、ヤンか」
『フロル先輩、お久しぶりです。すみません、突然お邪魔しちゃって』
画面越しに会話するフロルだったが、久しぶりの再会を素直に喜んでいた。相変わらずヤンは風体が軍人らしくなくて、隣りにいる少年の従者のように見える。もしかしなくとも、この少年はユリアン・ミンツだろう。
「なぁに、おまえさんにはいつでも俺の家に来いと言ってたからな。よく来てくれた、入ってくれ」
フロルは端末を操作してドアのロックを解除した。
「カリン、イヴリン、お客さんだ」
二人で楽しそうにしている淑女達にフロルは声をかける。
「誰?」
イヴリンが肩越しにこちらを向いて聞く。
「ヤン・ウェンリーとその被保護者だ」
「ヤンって、あのヤン・ウェンリー?」
カリンは突然、自分の保護者から出たビックネームに驚いたようだった。そうか、そういえばカリンには話したことがなかったのだ。
「ああ、あのエルファシルの英雄、ヤン・ウェンリーだよ」
「誰が英雄ですって?」
ちょうどそこにヤンとユリアンがリビングに入ってきた。この家には応接室などという気の効いた部屋はないのだ。それにいつもフロルがそんな気を使う男ではないと、ヤンも知っていた。だがヤンにとって不意打ちだったのは、フロルの家に妙齢の女性と可愛らしい少女がいたことだ
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