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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
涙と幸せ
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ーズスフレを取り出した。無論、そこにはなんの説明も加えられなかったが、お互い無言のうちに、まるで神聖な儀式を執り行うかのように、ティータイムの準備をしていたのである。

 そして数分の後、フロルとカリンはリビングのテーブルに向かい合って腰かけていた。カリンは紅茶を一口、その作り物のように可愛らしい口で飲みこんだ。そしてその繊細な味と、確かな深みに懐かしさを爆発させていた。紅茶の入れ方は、どれだけ練習してもまだまだフロルが遥かに上手いのであった。カリンは待ち望んだその紅茶を、不本意な気持ちのまま口にしたのである。

「カリン」
 まず口を開いたのはフロルであった。
 カリンは呼びかけに、小さな肩の震えで応えた。

「カリン、私はイヴリン・ドールトン、という女性と付き合っている」
 カリンは戦々恐々として、視線を手に持ったティーカップから、フロルに移した。フロルはその視線を真っ正面から受け止めて、小さく頷く。
「彼女とのお付き合いは真剣なものだし、彼女も多分、私を気に入ってくれているだろう」
「それは、結婚するってこと?」
 カリンはどこか辛そうに、そう訊いた。
「わからない」
 フロルは正直に応えた。
「私と彼女が知り合ったのは、かなり昔になるけど、男女として付き合うようになったのは最近のことなんだ。私はまだ彼女のことを知り尽くしてはいないし、彼女もそれは同じだと思う。だから、結婚するとしても、これから時間をかけて、考えていくと思う」
「じゃあ、すぐかもしれないの?」
「どうだろうね」フロルはそこで、カリンに微笑みかける。「だけど、カリンは安心していいよ」
「え?」
 カリンは目を見開く。
「カリン、君は私のことをどう思っているのか、だいたいは想像がつく。だけどね、私はカリンのことを、血の繋がった家族だと思っている。だから、これからどんなことがあろうと、君を最優先に考えようと思っている。これは、イヴリンにも言ってある。私は何があっても、カリンからは離れていかない。君が私の元から旅立ちたい、と思うその日まで、君は私の元にいて欲しいんだ」
 カリンは言葉の途中から、泣き始めてしまった。
(なんだか、いつも泣かしているな)
 フロルはそう思って、心の中で苦笑した。彼は椅子からなんとか立ち上がって、彼女のの横に行って、カリンを静かに抱きしめた。彼女は明らかに半年前よりも大きくなっていて、その成長ぶりはフロルにも眩しいほどだ。

「……ぐす…私……また、一人になっちゃうんじゃないかって」
「大丈夫だ」
「……フロルさんが…っ……私からっ……離れていくんじゃないかって」
「離れたりしないよ」
 フロルはカリンの顔をそっと掴み、零れ落ちる涙を指で拭いてやった。
「私は、君が君にふさわしい男を連れてくるまで、ずっと君
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