涙と幸せ
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、その主を見ると、それはカリンだった。なぜか彼女は私をジト目で見ている。
「カ、カリン?」
「フロルさんは、私が心配している時に、女の人といちゃいちゃしてたの?」
「え、いや、そんなことはないよ!」
フロルは狼狽えた。それは当たっていたからに他ならない。さすがに負傷してからはそんなことができる体ではなかったのだが、作戦前数ヶ月はそれなりに甘い時間だった、と言っても過言ではなかったのである。それは三年という時間的距離を、肉体的距離で埋めようとする作業であり、今までフロルの有してきた清貧・勤労・貞淑からは大きくかけ離れたものであったのだ。
「ホントだって、信じてくれ」
フロルは上辺だけの言葉を重ねるが、無論カリンには通じない。彼女は疑っている顔のまま、フロルの腕の中から逃れて、キャゼルヌ夫人の後ろに行って隠れてしまった。
「どうやら、嫌われたようだな」
キャゼルヌがその様子を面白そうに見て笑っている。
「シャルロットも年頃になれば、同じようになるんですよ」
フロルはそう言ったが、それはほとんど負け惜しみ、というものであった。
「でも本当に良かったわ。いつ、リハビリは終わるのかしら?」
「あと2か月と、聞いています。ミセス・キャゼルヌ」
「それまでは病気療養、ということになるだろう。せいぜい家でゆっくりしてるんだな」
キャゼルヌがそう言いながら封筒を手渡してきた。中を開いて確認すると病気療養につき、休職という記述されていた手続きの書類控えが入っていた。これは頼んでいたことだった。
「ありがとうございます」
無論、手続きを済ませておいてくれたことに関してである。キャゼルヌは他にもイヴリンや薔薇の騎士連隊の処理も頼んであった。仕事の早い彼は既にそれも済ましていることだろう。
「治ったらシトレ本部長に会いに行くといい。恐らく大佐に昇進してもらえるだろう。今回の戦いじゃ、おまえさんは十分戦ったということさ」
フロルは一つ頷いたが、一つだけ気になっていることがあった。
「そういえば、セレブレッゼ中将はどうなったんですか?」
彼が命をかけて守ったシンクレア・セレブレッゼ中将は途中でフロルたちを宇宙船を別にしたのだが、彼の精神状態が不安定になっていたことを、フロルは気にしていたのである。
「それがだな……」
「何か不味いことでも?」
「不味い、と言ったら不味いことなんだが、心的外傷後ストレス障害と診断されて、軍の病院で病気療養となっている」
フロルは目覚めたあとも、日に日にやつれていった彼の姿を思い出した。彼はよくも悪くも軍人に向く人間ではなかったのだろう。今回のことで、今までは経験せずに済んできた戦闘経験が、彼の精神的支柱を何本か叩き折ったの
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