フロル、帰還
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あんたがしつこく言ったおかげで、あいつの戦斧で死んだ奴はいない」
「あいつを殺るのか?」
「ああ、先代の連隊長の仇討ちだ」
シェーンコップは、言うことを言った、という顔をして席を立った。恐らく彼は他の人々を呼びに行くのだろう。そういうところの配慮は、意外とできる人間である。
廊下を走って来るような音がして、ドアに視線を向けたフロルの前に姿を現したのは、イヴリン・ドールトンだった。彼女はしっかりとした意識を保っているフロルを見て、何かを言おうとしたが、言葉が口に出ないで、ただ彼に駆け寄って、その右手を握りしめた。
「イヴリン」
声もなく泣く彼女を見て、フロルは彼女がどれだけ心を痛めていたかを知った。そしてそんな心配をさせてしまった自分を苦々しく思った。だが、この傷のおかげでイヴリンは無事だったのだ。いかに紳士的なラインハルトやキルヒアイスであっても、同盟の女士官が捕虜になったら、大変なことになっていただろう。だから、今ここで泣いているだけ、マシというものだった。
「イヴリン、俺はもう大丈夫だ」
「……何が大丈夫よ」
彼女の声は震えて、そして小さかった。
「あんた、一回心臓止まったのよ。銃線が右鎖骨下動脈を傷つけていて出血が止まんなくって……もう、大変だったんだから」
「ごめん」
フロルは可能な限り優しく、言った。
「ごめん、イヴリン」
「……何が死ぬな、よ。あんたが死にそうになってどうすんのよ」
「ああ、その通りだ」
「私をおいて、死なないでよ」
フロルは左手で、泣いているイヴリンの頭を、その柔らかい髪の毛を優しく撫でた。
「みんな、無事か?」
イヴリンは小さく頷いた。
「そうか」
フロルはそれを聞いて安心した。どうやらなんとかなったようだ。死ぬはずであった人間は死なず、自分も生き残った。上出来、というべきだった。
彼女が涙の壼を空にした頃、病室にはシンクレア・セレブレッゼ中将が現れた。中将は数日前よりやつれていたようだったが、その姿はしっかりとしている。
「中将、お元気そうで何よりです」
「中佐こそ、本当によくやってくれた。……本当に、ありがとう」
セレブレッゼは万感の思いを込めて、頭を下げた。フロルもその意味は理解していた。フロルがいなければ、基地の防衛戦は早期に瓦解し、増援は遅くなり、人的被害ももっと増えていただろう。だがそれだけではなく、セレブレッゼの前で命を張ったことに対して、彼が感謝しているということも理解していた。
「いえ、最初に言ったでしょう? 全力を尽くしただけです」
セレブレッゼは何かを噛み締めるような顔をしたあと、中将の推薦と防衛戦の戦果、名誉の負傷によってフロルが大佐に昇進するであろうことを告げて、病室を辞した。フロルは彼が去る前に、シェ
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