戦の始末
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のとこにいたフロル・リシャール中佐がそちらに行っておったはずじゃが、あいつは元気にしてるか」
ビュコックはその質問が、セレブレッゼの痛覚を刺激したことに気付いた。彼の顔に隠し切れない動揺が走ったのである。
「……リシャール中佐は……敵の銃撃を受けて重態です」
「なんじゃと!?」
「小官と、私の副官が、敵の捕虜になるというところを、助けてくれたのです。私は、何もできなかった。私はだた目の前で彼が撃たれるのを見ているだけだった!」
セレブレッゼはその激情を言葉に乗せて吐き出していた。彼は目の前で自分を守ろうと命を張った部下を、基地防衛のために全力を尽くしていた有能な部下を、ただ見ているだけで何もしなかったのだ。それは後悔ではない。自分という人間が、戦場においていかに無能かを知らしめる出来事であった。自分という人間を守るために、盾になった司令部の将兵、基地を守ろうと命を散らした地上兵、そしてより直接的に私のために動いていたリシャール中佐。リシャール中佐が、本当はイヴリン・ドールトン大尉のために命を張っていたことを、セレブレッゼはもちろん知っていた。だが、彼は結果的に、自分の命と将来を救ってくれたということも、知っていた。今、こうして偉そうに中将として話していられるのは、彼のおかげなのだ。
「……セレブレッゼ中将、そういうことはたいていどうしようもないものじゃ。あの時ああすればよかった、と思うことは何も生み出さん。中将は中将の、なすべきことをするべきじゃ。儂はリシャールという男を知っている。簡単に死ぬような男ではない。ただ、あの男が助かることを祈ろうじゃないか」
セレブレッゼは震える手を必死に動かし、敬礼をした。ビュコックも敬礼をして、通信が終了する。
ビュコックは、口に、あの美味しかった紅茶の味が満ちる感覚を、思い出していた。
ヤンがアレックス・キャゼルヌ大佐の部屋を訪れたのは、4月8日のことであった。彼は今年末に計画されている第6次イゼルローン要塞攻略戦の作戦会議に来ていたのである。第8艦隊作戦参謀としてこの作戦に参加することが内定していたのであるが、正直なところ、彼はこの作戦に悲観的だった。第5次のイゼルローン要塞攻略戦でも彼は確信していることだが、あの要塞は外からの攻撃で落ちることはないだろう。
だがロボス元帥は統合作戦本部長の椅子を狙っており、そのための出兵というべきであった。あるいは低迷を続ける現政権の支持率回復が目的か。どう考えても、ヤンが積極的にこれに参加する道理はなかったのである。
「キャゼルヌ先輩、お久しぶりです」
ヤンはキャゼルヌの部屋に入って敬礼をしたが、それに対するキャゼルヌの反応は芳しくなかった。
「……ヤン、困ったことになった」
「どうしたんですか? とうとうキャゼルヌ夫人が家
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