戦の始末
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在であった。フロル・リシャールは、カリンを叱らなかった。彼はこの薄幸の少女の悪癖を窘めるとき、いつもゆっくりと理解できるように説いて聞かせるのだった。一つにフロルは、このカリンという少女が相当に頭のいい子だということに気付いていて、そしてこの少女は非常に心優しいところがあることも知っていたからである。フロルは決して、上から押し付けるようには言わなかった。フロルは自分がカリンの父になることはできないとわかっていたからである。だからこそ、彼は彼女を導く存在として、優しくそばにいてやろうとしたのだった。
カリンもまた、長い時期を一緒に過ごしたことによって、フロル・リシャールという男の優しさに気付いていった。彼女が彼と会った2年前のあの日、抱いた印象は裏切られることがなかったのである。
彼女は一人、皿を洗いながら、遠くで戦争をしている男のことを思い出していた。彼がいなくなってもう半年以上経つ。高速通信で連絡をとったこともあったが、ここ最近は忙しくて連絡もとれていない。
不安がないわけではなかった。
だが、彼の言葉と、暖かさと、笑みが、彼女を辛うじて支えていたのである。
「あっ」
彼女は食器を棚に収めようとして、誤ってマグカップを落としてしまった。
マグカップは固い床に当たって、四散した。そしてそのマグカップが、フロルの一番のお気に入りのそれだったことに、彼女は気付いた。
背中に寒気が走る。
なんの根拠もない。
なんの理由もない。
そうであるはずがない。
だが、彼女はその瞬間、彼女が帰りを待っている男に、何かがあったことを確信した。それはカリンの第六感というべきものであったろう。この後、彼女がスパルタニアンのパイロットとして名を上げた際に役立った勘の良さと、それは同じものだったに違いない。
「エリィ!」
彼女は泣きそうになりながら、エリィを呼んだ。
エリィもまた、すぐに彼女の元に駆け寄ってきた。
カリンはエリィを抱きしめた。その暖かみを感じずにはいられなかった。エリィは大人しく抱かれたままになっている。まるでそれが、今自分がすべきことであるとわかっているかのように。
「どうにかして、終わりを迎えられそうじゃな」
ビュコック提督は目の前のディスプレイで引き上げつつある敵軍の艦隊モデルを見ながら、呟いた。あのフロルからの救援要請を受け取ったあと、可能な限りの快速運動でヴァンフリート4=2に駆けつけ、その狭い宙域で混戦というべき艦隊戦の、それが終わりだった。第5艦隊の動きは、冗長に堕っしていた会戦を終わらせる、という意味においてのみ価値があったのであり、勝利やまた死傷者の数になんらの影響も及ぼしていないことをビュコックは知っていた。
もっとも、かなり早くヴァンフリート4=2に来たおかげ
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