戦の始末
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くわかっていることだった。だが、そのせいでキルヒアイスの命を落とすなどということは、ラインハルトには一層認められないことなのであった。
「あの女、どうしておまえの前に飛び出したんだ。上官を守るためか?」
「いえ、恐らくただの上官ではなかったのでしょう」
「つまり、どういうことだ?」
「男女の仲だったのかと」
ラインハルトは数多くの美点と、数少ない欠点を持っていた。その中でも好色ではないというのは彼の美点に挙げられるものだったが、女性の機微に疎いというのは欠点にも挙げられるべきものだった。
「……すると、あの男は自分の女のために戦っていたのか」
「ええ、そしてその男の危機に、女性の方も命をかけたのかと」
ラインハルトはあのリシャールという面白い男が、今どうなっているだろうか、と考えていた。ラインハルトの放った荷電粒子ビームは、確かに彼の右胸を貫いた。それは放っておけば致命傷に違いなかったが、基地の中で負傷したのだから、救護処置も迅速に行われたことだろう。なぜ、自分は止めを刺さなかったのか。ラインハルトは、あの時銃を握っていた右手を、まるで他人の手のように見つめた。
あるいは、あの男の気迫に押されたのかもしれぬ。人間の生をかけた命の光が、あの男の瞳には宿っていた。もしラインハルトが引き金を引けば、あの男も寸分の来るなくこちらを撃ち抜いていただろう。
(そこまでして、女を守るか)
だが、その点に関しては、ラインハルトやキルヒアイスも、フロル・リシャールという男とは大した差異はなかったのである。前者はアンネローゼのために命をかけており、後者は自分を愛してくれる女性のために命をかけた。シェーンコップがそれを知ればニヒルな笑みを浮かべたであろうことに、あの一瞬、両者は自分にとって大切な女性のために命を運命の天秤に載せていたのだから。
キルヒアイスはあの男が死んでいるはずはない、と考えていた。あの男はそんな簡単に死ぬような人間ではない。きっとあの男は、また私たち二人の前に、立ちはだかる日が来るに違いないのだ……。
カリンはその時、ハイネセンのフロルの自宅で、一人お皿洗いをしていた。
彼女はフロルが旅立ってからも、彼女自身と彼女の大切な友人、エリィとともに、この家を守ってきたのである。掃除や洗濯、軽い食事から皿洗いまで、彼女は自分でそれらを行った。キャゼルヌ家に頼らないで、自分で頑張ろうと決めたことだった。それでもキャゼルヌ夫人は毎日、フロルの家にやってきてくれた。可愛い赤ん坊と遊びながら、3時のティータイムを過ごしたり、フロルが残していったレシピを見ながら一緒にケーキを作ったり。彼女はフロルの不在、という大きな寂しさを、どうにかして紛らわせていたのである。
カリンにとって、フロルは兄であり、父のような存
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