秋の空の回想
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
秋の空の回想
「眠いなぁ……」
フロル・リシャールは士官学校近くの、ハイネセン音楽学校の、それも音楽室の外で寝そべりながら、そう呟いた。
この時間、本当ならば戦史の授業のだが、彼はそれをさぼってこの音楽学校くんだりまでやって来ているのである。誰も音楽学校に潜入せよ、という任務を受けているわけではない。ハイネセンの空は青く、高く、もうすぐやってくる冬を迎えるように、晴れやかな秋の空であった。
音楽室から軽やかに聞こえてくるピアノの音はベートーヴェンだったかモーツァルトだったか。前世よりクラシックが好きな彼だったが、なぜか固有名詞を覚えるのは苦手だったのである。
フロル・リシャールは転生者である。
つまり、前世の記憶がある。
いや、そもそも今のフロルの状態が転生、と呼べるかは定かではない。なぜならフロルが転生したのは、あの銀河英雄伝説の世界だったからである。彼の記憶が劣化していないのであれば、銀河英雄伝説とは彼の前世にて人気であったSF小説だったはずである。彼はその愛読者であり、アニメのファンであり、ともかくつまりは大好きな物語だったのである。
彼は前世では、相沢優一という青年だった。日本人である。
彼の死は唐突だった。バイトからの帰宅途中、交通事故に遭ったのである。トラックに当たったその瞬間、全身に疾った痛み、衝撃は今もありありと思い出せる。
あ、死んだな、と思った。
あっけないものである。
まさか24まで生きてきて、こんな簡単に死んでしまうとは思ってなかった。
そして次の瞬間、彼は転生してたのである。
痛みが引いたと思ったら、目の前に知らぬ外国人の男女が二人、こちらを覗き込んでいた。誰だろう、と思ったのは、当然の話だろう。まったく見たこともない人間が、どうやら病院で、こちらを見ていたのだから。もし交通事故に遭って一命を取り留めたのであれば、本来その二人は相沢優一の両親であるべきなのだ。だが、そういうわけでもない。
「おお! フロルが目を開けたぞ、アンナ!」
「なんて可愛いのかしら……見て、この目、レイモンにそっくりよ」
「ああ、この口なんてアンナそっくりじゃないか」
フロル? アンナ? レイモン? 誰だ?
しかもそれは英語だったのである。ますます心当たりがない。
「ああ、あ〜ああ?(あれ、どなた?)」
だが私の声もまた、なぜか発音できなかったのだ。私は自分の手を見た、体を見た、そしてそれは赤ん坊の体だったのである。
そして私は気付いた。
俺は生まれ変わったのだ、と。
俺は新たな両親の元、民主主義の国、自由惑星同盟で生まれ育った。銀河帝国に生まれるよりは幸せだったのかもしれない。俺は両親の愛情を受けて幸福な日々
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ