別れと再会
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大好物だったのである。フロルは暇な時には、積極的にカリンとケーキを作った。カリンもまたそれを楽しそうに覚えていった。彼らの間では会話に用いられた時間よりも、一緒にケーキを作っていた時間の方が長かっただろう。
またカリンがフロルの家に来て一か月強経った7月16日、カリンの誕生日に、フロルは大きなプレゼントをしたのである。
それはビュコック夫人から聞いていた、カリンが夢中になったというシェットランド・シープドックのメスの仔犬だった。カリンは泣きながらそれを喜んだ。そしてその仔犬をエリィと名付けた。母親のミドルネームからとったのだという。一年の間にその犬はすくすくと育ち、今ではカリンが抱きかかえるのにも一杯の大きさになって、カリンにべったり懐いている。恐らく、今もハイネセンのフロルの家でカリンを守っていることだろう。
カリンは今、キャゼルヌ先輩の家で面倒を見てもらっている。寝起きはフロルの家だが、ご飯はキャゼルヌ家で食べさせてもらっているはずだった。キャゼルヌの心情としては、子供を預けて一年足らずで単身赴任することになってしまって、申し訳ないと思っているようで、出来るだけ早く戻れるように尽力する、とのことだった。だが、最低でも一年は戻れぬ、とのことでもあった。
カリンは当初こそ、フロルの転属に無関心を装っていたが、フロルがヴァンフリート4=2に旅立つ朝には、彼に抱きついて泣いたものである。その姿には思わずフロルももらい泣きしてしまった。
「フロルさん、絶対、絶対帰って来て下さいね」
カリンは目と鼻を真っ赤にしながら言った。
「ああ、大丈夫。後方基地だからね。それに一年で戻って来るよ。それまで、エリィと一緒に俺の帰る場所を守っていてくれるかな?」
「はい、待ってます。この一年の間に、ケーキの腕前だって上げてやるんだから」
「そうそう、その意気だよ」
フロルはカリンを抱きしめて思った。ここは既に俺の家なのだ。そしてそこには待つ者がいる。死ぬわけにはいかない。
「キャゼルヌ先輩の家は二つ隣りだから、心配はないと思うけど、何かあったらちゃんと頼るんだよ。無理をしちゃあいけない」
「はい、わかってます。今年でもう10歳なんですから」
「ああ、今度の誕生日で10歳だ。もう一端のレディだね」
「ええ、待ってます。待ってるから」
そう言って、別れて来たのである。フロルはカリンをもう一度抱きしめたあと、犬のエリィの頭を撫でながら、「カリンを頼む」と言ったのだった。
それが既に半月前。ヴァンフリートまでおよそ2週間かけて、フロルはこの基地に到着したのであった。
「その、私は軍事的な才覚がある方だとは思っていない」
セレブレッゼ中将が言いづらそうに言った。
「だからその、彼らローゼンリッターに舐められてると
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