戦いの裏で
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留めた。もしかしたら、将来何かわかるかもしれぬ、とも思っていたからである。
だが、とりあえずは、フロルが望むようにしてやろう、と考えていた。
この男はいつも何かを考え、どこからか情報を集め、人のために動く男である。彼はまるで自分のためにそれを行っている風を装う男だが、実際は誰よりも周りの人間のために動いている。それは彼の行動原理とでも言うべきものであった。ならば、今回もそれに乗ってやろうと思ったのである。
「わかった、まぁ過去に例がなかったわけでもない。そう手配しておくよ」
キャゼルヌはこうして、カーテローゼ・フォン・クロイツェルという少女を、フロル・リシャールの扶養者にするよう、手続きをすることになったのであった。
その話が終わるとフロルは席を立った。キャゼルヌもまた、一つ仕事が増えたのである。ここは帰った方が彼のため、というものであった。
「おい、フロル」
「はい、なんでしょう」
「おまえさんは今回のイゼルローン攻略戦、どう思う?」
キャゼルヌは部屋のドアノブに手を伸ばしたフロルの背中に声をかけた。フロルは振り返って、そのドアにもたれかかって、短い時間考えた。
「恐らく、成功しないでしょうね」
「ほぅ。では作戦は失敗すると?」
「いや、平行追撃作戦も、無人艦突入作戦も、成功の余地はあります。その意味ではなかなか優れた作戦案だと思うんですが」
「だが、それでもダメだと?」
「この作戦は帝国軍と同盟軍の混戦という状態を作り、トールハンマーを撃たせないようにするのが目的です。つまりその砲の前に帝国軍がいたら敵は撃たない、ということを前提にしてるのですが」
「その前提を見間違えている、というのか」
「果たしてイゼルローンを治める貴族様にとって、イゼルローン失陥と、味方殺しのどちらを選択するか、ですね」
そう言うとフロルは手を振って、キャゼルヌの部屋を出た。キャゼルヌもまた、書類を処理する手を休めてそれについて考えていた。その時、同じことに考えついている人間が、遠征軍にもまた一人、いたのである。無論、それはヤン・ウェンリーである。だがヤンも、そしてフロルも、何事かをするには、権力が小さすぎたのであった。
宇宙暦792年、帝国暦483年5月7日。帝国軍がトールハンマーによる無差別砲撃という暴挙によって戦局を挽回、第5次イゼルローン攻略戦は、失敗に終ったのである。
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※訂正※
ミンツ中尉→ミンツ大尉
(本当はフロルの勘違いの予定でしたが、中尉であった描写を消したので、結局訂正)
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