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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
戦いの裏で
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している。遺児にはなっておらんよ」
 すると、今のユリアンは厳しい祖母の元でいじめられている最中なのか、とフロルは思い出した。

「じゃあ俺に誰の子を引き取れと?」
「いや、特に誰というわけでもない。だがおまえさんももう26歳だ。本来ならば結婚して子供ができていてもおかしくのない年齢にも関わらず、独身であると言う社会的罪悪を成しているわけだ。ここで迷える子供を一人くらい引き取っても罰は当たらんだろう」
「はぁ」

 フロルは溜め息をつく。彼自身面倒だとは思うが、内心しょうがないとも思っていた。それに今の階級の給与は十分すぎるほどで、もう一人扶養者が増えても食っていくのに困ることもない。

「いいですよ。でもなんで俺に頼んだんです?」
「そりゃあおまえさんは既に階級も中佐だからだ。給与は十分だろ」
 その言葉にフロルは苦笑する。その通りだからだ。

「それに、俺はフロル・リシャールという人間を知っている。もしおまえさんがこれから育てた子が、15歳になって軍人になりたくない、と言ったらおまえはどうする」
「むろん、軍人にはさせません。花屋だって医者だって画家だってなんだって、させてやるつもりですよ」
「だが政府からの養育費はどうする」
「それぐらい俺が出しますよ。そんなケチな大人に育てられたとは、思われたくないですからね」
「そこだよ、フロル」
 キャゼルヌが頷く。それはまるで自分が思った通りだと、満足する顔である。
「おまえさんは色々と人間性に欠陥があるがな、金に執着しないという美点がある。おまえさんに子供を預けて、困ったことになりはしない、とまぁ俺は考えたわけだ」
「つまり15歳になった時、子供を金で縛らない慈善家を探してたわけですか」
 フロルは小さく嘆息した。なかなかどうして、キャゼルヌは食えない男である。

「まぁ、そうだな。いや、おまえさんが引き受けてくれてよかった。では五人ほど送るかな」
「キャゼルヌ先輩、そんな大人数養えるほど、中佐の待遇は良くないと思いますが?」
「しょうがない、では誰か適当なのを見繕ってやろう」
 キャゼルヌはソファから立ち上がり、デスクから書類を取り出した。
「あ、それが名簿ですか?」
「ん? 見るか?」
 本来は機密であるはずのそれを渡すキャゼルヌ。それだけフロルには信用があるということだろう。もっともそこにあるのは名前と性別、年齢のみであり、親族や写真などの掲載はない。
「これ、写真がありませんね」
「昔、トラバース法で預かった子供を性的に虐げた准将がいてな、それ以降の慣例で写真の掲載などはされなくなっている」
 その分厚い名簿をぱらぱらとまくるフロル。この厚さ1センチに達しようとする書類に記せられた名前の全員が、自分の親を戦争という命の浪費の中で失ったのだ
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