戦いの裏で
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昇進するんだろ?」
「はい、イゼルローンへ出兵した連中が帰って来たあと、落ち着いてね」
フロルはそう言ってキャゼルヌの部屋にあるソファに座った。彼自身、久しぶりのこの部屋である。第5艦隊に移ってからはそちらにかかりっぱなしだったため、キャゼルヌやヤンと会うことも減っていたのである。ジャン・ロベール・ラップは一年前の艦隊戦において負傷し、その後長期の入院中である。もっとも命には別状がないのだが、フロルはこれでもこまめにお見舞いに行っている。恐らく、言わないだけでキャゼルヌも何度も会いに行ってやっていることだろう。
「おまえさんはいつも勝てる時にそのおこぼれに預かる形で昇進する男だな」
「ヤンはどちらかというと負ける時に人より多少マシな働きをして、昇進する男ですがね」
フロルは肩を竦める。
「あ、ミンツ大尉は元気ですか。そういえば最近見かけませんが」
「それだがなフロル、ミンツ大尉は二階級特進でミンツ中佐になったよ」
「死んだ、んですか……」
フロルは上を見上げる。もしかしたらそこにあの人の良いミンツ大尉がいるのではないか、と思って。
「おまえさんが第5艦隊に移ったあとだ。転属した先で艦隊戦に巻き込まれてな。名誉の戦死だとよ」
キャゼルヌが吐き捨てるように言う。名誉の戦死だろうと、路傍の野垂れ死にだろうと、死は死である。いかな言葉で装飾しても、そこに差異はないのだ。
「そうか……、俺の紅茶の腕前を披露してやりたかったんだがな……」
フロルもまた、彼が死ぬということを忘れていたのであった。頭のどこかで、今もキャゼルヌの副官をやっているのではないか、と考えていたのだ。
「ふむ、おまえさんがくれたシロンの茶葉はまだ残っている。久しぶりに、美味しい紅茶でも飲ませてくれるかな」
「ええ、入れましょうか」
二人はしんみりとした空気の中、かつての達人を憶いながら、紅茶を口にした。
「そういえばだ、リシャール中佐」
そこで思い出したようにキャゼルヌが切り出した。
「おまえさん、トラバース法というのを知ってるか」
「トラバース法……軍事子女福祉戦時特例法のことですか」
トラバース法とは戦災遺児を軍人の仮定で養育する法律で、帝国との戦争によって慢性的に生じる戦災遺児の救済と人的資源確保を目的として作られたものである。15歳までの養育期間中は政府より養育費が貸与される。その後の進路は個人の自由になるのだが、遺児が軍人あるいは軍事関連の仕事に就けば養育費の返還が免除される、というものである。言わば金で前途洋々な子供の将来を縛る、えげつない法律だ。
「そう、そのトラバース法だ」
「もしかして俺にミンツ大尉のお子さんを引き取れって言うんじゃないでしょうね」
「いや、彼の子供は現在、彼の母君の元で過ご
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