ビュコック提督
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年、戦争を続けて来ました。そして我が同盟の社会構造は歪みを拡大し続けて来ました」
「君は帝国を滅ぼすべき、と思うかね」
「私は、同盟を絶やしてはならない、と思っています」
フロルの視線が鋭くなった。ビュコックの問いの意味を理解したからである。
「我々同盟の市民は、この長過ぎる戦争状態によって本来の意味を失っています。私たちの祖先は帝国による自由を奪われた生活を手に入れるため、このハイネセンまで長い旅を続けて来た。そして苦難の果てに手に入れた自由を守るため、帝国と戦って来た。だが、現状はどうですか。同盟と帝国の戦争によって、自由や生活などよりも何より大切にしなければならない命を浪費し、そのせいで社会構造は歪み、ひいては生活にまで影響を与えている。我々は個人の自由を手に入れるために、いや守り抜くために戦っているのであって、国家のために命をすり潰すために生まれて来たのではないのです。確かに自由も民主主義も私は心より賛同申し上げる。ですが、そのために命を浪費し、それによって国家の存続を図っている政治家どもなど、私にとっては忌避すべき対象でこそあり、親しみ擦り寄る対象ではございません」
「……偉く饒舌じゃな。貴官がそこまでよく喋る男とは思わなんだ」
「私は口下手なのです、提督。だからこそこんな言葉を重ねに重ね、伝えたいことを伝えようとしているのです」
ビュコックはこの青年の人柄がわかってくるようだった。この男はあくまで民主主義のために戦っていながら、誰よりもその兵士のためを思っている。同盟市民を守るために同盟軍が存在し、兵士がそこに所属している。だが、その兵士もまた、一市民であることをこの男は忘れていないのだ。
「提督、なぜ政治家が、先生、と呼ばれるかご存知ですか?」
「ふむ……、儂がどう思っているかは別にして、ほとんど政治家どもは偉いからだ、とでも思っているだろうな」
「政治家とは、自分の欲や望みを捨て、国民が平穏で幸せな生活を送るために、国家を動かす人物を言います。例え国民の望みがAであっても、国民が将来に渡って平和に暮らせるためならBを選択できる、いやそこまでの視野や思いやりをもって国を動かせる非情の者を指すのです。そのために自分の生活を顧みない者を、尊敬するがための尊称です。私はこのような政治家を、浅学ながら少ししか存じ上げません。そして、そうでもない輩に尻尾を振るほど、私は浅はかな矜持を持ち合わせてはいないのです」
ビュコックは悟った。この男は自分が政治家との癒着でもって昇進を喜ぶような男である、と儂に思われたくないからここに来たのだと。恐らくこの男は理解しているのだろう。それを示そうにも、それは誠意でしかなしえぬことを。だからここに来た。儂もまた戦争の愚かさを知りながら、戦争をして来た老人だからこそ、今の政治
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