ビュコック提督
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
意識された無神経というべきだったのかもしれない。
「ビュコック夫人、お初にお目にかかります。フロル・リシャール少佐です。よろしければ、こちらをどうぞ」
と言って手に持っていた紙袋を差し出したのである。
「あら、それは……ありがとう」
横でそれを凝視している夫に目を向けながら、恐る恐る手を伸ばした彼女は、その袋の意外な軽さに驚いた。中を見ていると、そこには袋一杯にパッキングされた紅茶の茶葉が入っていたのである。
「あの……、小官の前の任地先がシロンでして……、よろしければどうぞもらってやって下さい。お土産用にハイネセンに持ち帰ったのですが、少々多く持ち帰りすぎまして」
「まぁまぁそれはご親切に」
老婦人はそう言って柔らかに笑う。フロルは、そこに幸せな人生を送って来た者の笑顔を見たような気がした。
「少佐もなかなか気が利くようじゃがな、それだけかね、用件は」
「あ、いえ、違います」
ビュコックは身構えた。本題が来た、と思ったのである。
だが、彼の予想はまたも裏切られる。
「その袋の中に、私が作ったアールグレイのシフォンケーキがあるんですが……」
フロルはまるで今まで大切に隠して来た宝物を見つけられた子供のように、恥ずかしげに頭をかいた。
「ご一緒にいかがです?」
「ふむ……」
ビュコックは考えていた。この男はいったい何をしに来たのだろうと。突然、儂のような男のうちにやって来たかと思えば、紅茶の茶葉と手作りの驚くように美味しいケーキを一緒にどうかと薦めて来た。そして本題に入るかと思えば、儂の妻と一緒にどうでもよいような話題で談笑しておる。いったい……何の目的があるのだろうか。
そしてビュコック夫人がキッチンに戻った時、フロルは改めてビュコックに向かった。
「提督、私は士官学校を出ました。閣下とは違い、人並み以上に昇進が早いという自覚はあります。はじめパストーレ少将のもとで数年を過ごしました。なぜか迷惑な話で、政治家とのつながりがあるという噂まで立てられましたが……困ったものです」
「ふむ……少佐は政治に興味はないと?」
「率直に言わせて頂きます。彼らは私に恩を売ったつもりで昇進を与えましたが、私は彼らにそれを頼んだことは一度もなく、そしてそのために何かをしたこともありません」
「すると、君は政治家との繋がりはないのかね」
「繋がりにはいくつかの種類があります。自分から積極的に持とうとして持つ繋がりと、しょうがなくできてしまった繋がりです。そして私の場合は後者でしょう。上官がラウロ・パストーレになってしまった、ただそれだけです」
「そうかね。では尋ねるが、貴官は現在の同盟をどう思う」
「非常に不味い状況、だと思います」
フロルは言葉を選びながら、そう言った。
「同盟と帝国は既に数百
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ