790年の昇進
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しとく。……そういえばヤンはどうした?」
「今は第8艦隊の作戦参謀やってます。今は確か訓練でハイネセンを出てますね……。先輩の次の配属は?」
「第5艦隊作戦参謀だ」
「ビュコックの爺さんですね」
「こうるさい爺さんは嫌いだが、学ぶところは学ぶ所存さ」
「それはそれは殊勝なことで」
じゃあ、といって二人は別れた。もちろん、彼らの心の何割かは今夜ありつけるであろう美味しい食事のことである。フロルはまだ2回目の対面であるキャゼルヌ夫人の為にケーキでも作って行こうか、と思っていた。今はまだ午前中。夜まではたっぷり時間がある。大量に買って持って帰って来たシロンの茶葉を使って、美味しいケーキを作るつもりだった。
「オルタンス・キャゼルヌです」
「ジャン・ロベール・ラップです」
「フロルです。お久しぶりですが、結婚式の時に一度お会いしたのですが、覚えていらっしゃいますか」
「ええ、もちろん」
キャゼルヌ夫人は、自分の亭主のうるさい友人にも嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた。
キャゼルヌ宅は官舎で、軍が用意する官舎は基本どれも同じ規格なのだが、その家はまるでまったく違う家のように、空気からなにから違うのであった。恐らくキャゼルヌ夫人の手が行き届いているのであろう。キャゼルヌが独身の頃には合理的で無味乾燥な風合いだったのだが、まったくその頃とは違う暖かみがあるのであった。ヤンの妻になるフレデリカのような才人の妻もいいが、キャゼルヌ夫人のように家で亭主をがっしり握っている奥さんというのも、なかなかいいというものだろう。そしておめでたいことに、キャゼルヌ夫人はすでに懐妊していた。恐らくこの子供がシャルロットなのだろう。既に少しお腹が大きくなって来ていた。
「この度はおめでとうございます」
「ありがとう、ラップ。こんなに早くできるなんて思わなかったけど、嬉しいものだわ」
「まぁ、俺としても人の親になるというのはなかなか興味深い体験だと思うよ」
キャゼルヌ夫妻はそう言って玄関で我々を招き入れた。
「これ、どうぞ。お土産です」
部屋に入ったフロルは手に持っていたシロン産の高級茶葉を手渡した。
「あら、シロンの紅茶じゃない。ありがとうね、フロルさん」
「フロルはついこないだまでシロンで勤務していたからな。もしかして紅茶党に趣旨替えしたんじゃないか?」
「俺は今でもコーヒー党ですよ。紅茶とコーヒーの美味しさをどっちも理解した上で、コーヒーを選んでいるんです。あ、あとこれはアールグレイのシフォンケーキです」
「あら、話には聞いてますわ。フロルさんの作るお菓子ってとても美味しいんですってね。この前は結婚式でしたから頂けませんでしたが、楽しみにしてたんですよ」
「それは光栄です」
そのあとはキャゼルヌ夫人の美味
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