外伝 マドレーヌ
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いる絶妙感。
「え、凄い、何この美味しさ」
「マドレーヌは私が一番最初に習った菓子なんです」
父の書斎から戻ってきたフロルが、私たちの後ろから声をかける。私たちは一斉に振り向き、その菓子職人を見つめた。
「先輩のマドレーヌ、そんなに美味しいんですか?」
一人だけ興味がない風を装っていたダスティも、今更それに手を伸ばした。一口食べて目を見開く。さすがにニーナと姉弟だけあってリアクションも同じだ。
「美味しい! 先輩、これって店で売れるレベルですよ!」
「ははは、ありがとな」
彼は照れたように笑っている。その後、ユニス姉からその作り方を根掘り葉掘り聞かれ、それに親切丁寧に答える姿は、私たち三姉妹の心に何かを残していくものだった。
そしてその時、フロルの後ろにいた父が、深く思い悩んでいるような顔をしていたことに、誰も気付かなかった。
「それじゃあ、今日はお邪魔しました」
フロル・リシャールは夕飯の前にそう切り出した。
「あら、今日は食べて行っていいのに」
「ええ、是非食べて行って下さい! フロルさん!」
「ユニスさん、ニーナさん、どうもありがとうございます。ですが残念ながら用事がありまして、行かなくてはならないのです。本当に申し訳ございません」
私は心の中で肩を落とした。だが、この出逢いは何かを感じさせるものだった。とても紳士的で、お菓子作りが天才的に上手い、エリート軍人なんてなかなかそういるものではない。軍人というのはもっと荒っぽいものだと思っていたが、これはいい意味で期待を裏切られた気持ちだ。まだ20代前半だから、結婚うんぬんを意識していたわけじゃないけど、これはなかなかどうして、いい縁だと思う。
もっとも、ダスティは何かを言いたそうな顔をしているが、私はまたあの青年を我が家に連れてくるよう、しっかりと言い含めなくてはならないだろう。
「ダスティ」
彼が去ったあと、父がダスティに話しかけていた。
「なんだよ」
「あのフロルという青年……何者だ?」
「ああ、何を父さんに言ったかは見当もつかないが、俺が及びも付かないほどの人物ってのはその通りだ」
父はそれに何か納得したように、何度も頷いた。
そうして、フロルのアッテンボロー家訪問は幕を下ろしたのである。
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※訂正※
ダスティン→ダスティ
ルーカス→パトリック
嫁に嫁いだ→嫁に行った
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