女の敵 (後)
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車に目をやった。
「俺はね、不思議に思ってたんだ。いくらいい男だといっても、妻子持ちの男との不倫。結婚をちらつかせられたにせよ、そんな簡単に事が進むわけがない、わかってたんだろ?」
「……」
「だがな、それで捨てられ、何かが壊れちまいそうになってるあんたを見てて、こっちまで可哀想になってきてさ……。まぁ昨日痴漢扱いされたのは参ったが、そのおかげであんたと会えてよかったよ」
「どういうこと?」
「もし昨日までのあんたが、サローニを見つけたら、どうする」
「殺すわ」
「じゃあ今も殺したい?」
「それは……」
わからなかった。なぜか昨日までの熾烈なまでの憎悪が、その濃度を薄くしている。
「あんたは優秀な軍人だ。今回の事がシロとなったおかげで、また活躍できる場も出てくるだろう。士官学校の卒業者名簿で見たぜ、イヴリン。俺はあんたの二つ下の後輩だよ」
そう、このイヴリン・ドールトンはフロルの二つ上の先輩だったのだ。卒業時の学年順位は13位。まず人並み以上に優秀なのだ。
「もっとも不倫はやめた方がいいぜ、と言っておこう。もうこんなくだらんことで身を潰すな」
「あんたはそのために?」
「俺は美人には手を差し伸ばす主義でね」
「これは借りにしないわよ」
「……昨日の痴漢を取り下げてくれたことでチャラにするよ」
「いいえ、今日のお茶に誘われてやった借りが、あなたにあるわ」
フロルはそれに抗議しようと口を開けて、そのまま口を閉じた。イヴリンの右目から涙が零れ落ちるのを見たからである。
「……なんで、あんなクソ野郎を好きになったのかしら……」
「知るか、おまえがバカだっただけだろうよ」
「ええ……まったくバカよ……私って……ホントにバカよ……」
「……ケーキ食えよ。自信作だぜ」
フロルはそっとフォークを差し出す。顔を伏せながらそれを受け取ったイヴリンはケーキを一口とって、口に含んだ。
「女って……あれだろ? 失恋したらやけ食いして憂さをはらすんだろ?」
フロルはそう言って納まりのつかない頭をかいた。前世でも、この世でも、ケーキ修行やら士官学校で女性経験がほとんどなかったものだから、傷心の女性を慰める手段すら知らないのである。こういった男の一種の純情さは、ラップのためを思ってジェシカから身を引いた際にも現れたものだったろう。彼には、自分のケーキくらいしか、女性が好みそうなものを知らなかったのである。敢えて言えば、ケーキだけは自信があったということだが。
「あんた……やっぱ女の敵よ」
「な、なんでだよ!」
イヴリンは顔を上げた。
頬を伝る涙。
だが、そこには笑みがあった。
「こんな美味しいケーキ食べたら、太っちゃうじゃない」
フロルは、唐突に胸の中に広がる感
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