第二幕その五
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第二幕その五
「もう僕は」
彼は肩を落として部屋を立ち去った。一人になり暫しまたオランダ人の肖像画を見ていたゼンタだがそこに。ダーラントがやって来たのだった。
「お父様」
「娘よ、久し振りだね」
両手を広げて娘に対して言う。
「会いたかったぞ」
「私もっ」
笑顔で父に駆け寄り抱き締める。そのうえでまた言い合うのだった。
「待っていたわ、本当に」
「ああ。ところでゼンタ」
「何?」
父を抱き締めながら問う。
「どうかしたの?」
「うむ。実はな」
彼はここで今部屋に入って来た者を紹介した。それは。
「彼だが」
「この方は」
「御前の旦那様になる人だよ」
「はじめまして」
オランダ人だった。肖像画と全く同じ顔をしている。彼の姿を見てゼンタは声をあげそうになった。
「えっ・・・・・・」
「!?どうしたのだ」
「いえ、何も」
だが言葉は何とか出さなかった。かろうじて止めたのだった。
「何もないわ」
「そうか、ならいいがな」
「ところでこの方が」
「うん、そうだ」
にこりと笑って娘に告げる。
「この方が御前の夫になる。明日な」
「ゼンタさんですね」
「え、ええ」
戸惑いながらオランダ人の問いに答える。
「そうですけれど」
「オランダ人です」
彼の方から名乗ってきた。
「はじめまして」
「こちらこそ」
ゼンタはオランダ人に対して一礼してみせた。
「宜しく御願いします」
「優しい娘です」
娘から離れた後で彼女を右手で指し示してオランダ人に告げる。
「何かと世話を焼いてくれます」
「そうですか」
「ゼンタ、見てくれ」
ダーラントはポケットから金の留め金を出してきた。
「それは」
「この方からの頂き物だ」
こう娘に話す。
「これだけではないしな」
「これだけではないのね」
「そうだ。全くもって素晴らしい」
おっとりとした声だった。しかしゼンタは父を見てはいない。オランダ人をじっと見ていた。これだけではないとはオランダ人を見ての言葉だった。
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