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ヴァレンタインから一週間
第7話  本当に有った怖い話?
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いる方が良いと思っただけですから。

 まして、この目の前の少女が陰気に沈む姿と言うのは、相応しくないとも思いましたから。

「さて、そろそろ閉館時間かいな」

 俺が、自らの左腕に巻く腕時計に視線を落とした後、本を元有った場所に返すために立ち上がった。そう。何時までも彼女の相手をしていても仕方が有りません。
 もし、この街で起きている……。起きつつ有る事件が俺の想定通りの事件ならば、この世界の霊的な事件に対処する組織との接触を早急に図る必要が有りますから。

 まして、長門さんをこれ以上、一人にして置く訳にも行かないでしょう。

「何よ。その本、借りるんじゃないの?」

 最初の状態……よりは幾分、柔らかくなった雰囲気の不思議な少女が、俺に対してそう聞いて来る。
 ほんの少し――。本当に微かなレベルで表情が柔らかくなるだけで、女の子と言うのはこれだけ印象が変わるのか、と言う感想を抱かせる表情を魅せながら。

「まぁ、借りたいのは山々なんやけどな。せやけど、俺には身分を証明出来るモンがないんや。
 色々と訳ありでな」

 事実をありのままにに伝える俺。更に続けて、

「俺が、実は来訪者で、昨夜までこことは違う何処か遠いトコロで暮らしていた、……と言ったら、姉ちゃんは信じてくれるかいな?」

 そう言った。それに、これも嘘では有りません。
 しかし……。

「つまり、何処か遠くで暮らしていたけど、家庭の事情か何かでこっちに来ているって事なのね?」

 至極、常識人的な答えを返して来る美少女。
 彼女は、人当りはキツイし、台詞はエキセントリックですが、それでも、考え方の基本は常識的な一般人のモノなのでしょう。

「当たらずと雖も遠からずかな。実際、俺は現在、天涯孤独の身。お父ちゃんとお母ちゃんは三年前の春に事故で居なくなったからな」

 表向きはそう言う事に成っている事情を口にする俺。
 但し、事実は違う。異界からの侵食に侵された……いや、支配されたと表現すべきか。支配された狂信者に因って引き起こされた事件による被害者。それが俺の両親で有り、地脈の龍を抑え、その御霊を慰撫し続けて来た末裔が俺の家系だった。

 その家系の人間が邪魔だったのと、俺の家……神職に伝わっていた神器が必要だった。たった、それだけの理由で……。
 そう考えてから、しかし、小さく首を振る。
 そう。感傷は意味がないから。まして、あれは既に終わった事件。俺はすべてを許したし、地脈の龍から切り離されて危うく暴走しかかった姫さんも無事に天へと還って行った。

 いや、水の底に有る都に還って行ったが、あの姫さんの場合は正しい表現となるのかな。
 最初の生命の時には、水の底にも都の候、と言う言葉と共に、水面に消えて行った
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