第4章 聖痕
第48話 クーデターの夜
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れも、タバサ以外の存在から呼び掛けられたとして、わざわざ振り返らなければならない理由は、俺にはない」
まして、腐臭しか発しない存在の言葉に惑わされるほど、俺の心は摩耗している訳でも有りませんから。
それに……。
「タバサは俺の名を呼ばない」
ゆっくりと、出口に向けて進みながら、先ほどよりも俺の右手を強く握って来るタバサ。
それに、彼女が俺の名前を呼ばない理由も、おぼろげながら判っていますから。
それは、最初に俺がタバサの名前から違和感を覚えたのと同じ理由から。
そして、後一歩。彼の世と此の世の境界線上で立ち止まる俺。
ここで振り返れば、オルフェウスがエウリュディケを失ったように、俺は彼女を失い、千曳の大岩にてこの境界線を塞がれる事と成るのか。
「なぁ、タバサ」
未だ振り返る事は出来ない。しかし、ここで無ければ聞けない事も有る。
俺の意志は、普段の言動や雰囲気通り、そんなに強固な物では有りませんから。
もしも、この問い掛けを行うと同時に彼女の瞳を覗き込んで仕舞うと、これからの俺の問いに対する彼女の答えに関係なく……。
「俺の真名を知りたいか」
呟くような、囁くような俺の問い掛けが、石畳に、そして、石造りの天井に反射され、再び俺の耳に届いた時には、何処か別の人間が発した言葉のように感じられた。
しばしの沈黙。そして、
「今は必要ない」
やや抑揚に欠ける、平坦な彼女に相応しい口調の言葉で、そう答えるタバサ。そして同時に、繋いだままの俺の右手に、彼女の心が伝わって来る。
そう、彼女は、『今は』と表現した。これはつまり、未来については……。
「そうか。ならば、先に進むか」
普段の雰囲気に戻し、そう、少し軽い目の調子で問い掛ける俺。彼女が今は必要がない、と言うのなら、今の彼女がそう思っていると言う事。
そして、彼女の方も普段の調子……いや、普段よりも少し好調だとは思うのですが。その彼女から、首肯いたような気が発せられた。
そして、今、境界線を越えた。
☆★☆★☆
二人が立っていたその場所は左右に道が広がる通路用の石畳と、水路だけの煉瓦で造られた構造物。そして、俺とタバサが辿って来たはずの移動用術式に因って造り上げられた通路は、苔むした煉瓦に因る壁に阻まれ、そこに有った事さえ感じる事は出来なく成って居ました。
……ただ、澱み、腐った水やヘドロ。そして、様々な腐臭の入り交じった特徴的な臭気は未だ健在。更に、真夏の夜のはずなのに、ひんやりとした湿った空気が纏わりつくこの場所の正体は……。
「シルフ。早急に、俺とタバサの周りに新鮮な空気を発生させ、この臭気の排除を頼む」
そう依頼する俺。次の
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