第4章 聖痕
第48話 クーデターの夜
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
彼女に相応しい声で、俺の名を呼ぶ彼女。但し、その声は、何故か地の果てより響く怨嗟の声のような気を帯び、俺を更なる不安へと誘う。
「なんや、何か用か」
右手を少し強く握りしめてから、そう答える俺。生者のそれと思わせる事のない小さな手からは、普段の彼女とは違う、かなり冷たい感触を伝えて来る。
それに、彼女の言いたい事は判ってはいます。少し先に、この永劫に続くかと思われる階段の出口らしき、平坦な石畳が存在していたのですから。
「あそこまで進めば、一旦のゴール。そこが何処に通じているのか判らないけど、通常の空間で有る事を祈るばかりやな」
ゆっくりと、タバサに対してそう話し掛ける俺。もっとも、その場所がロクな場所のはずはないのですが。
何故ならば、イザベラを攫って行ったのは、ほぼ間違いなく殺人祭鬼の一員。何の意味もなくイザベラを連れ去る訳はないでしょう。
まして、その連れ去った道をわざわざ残して有るのです。ブランシュー伯爵邸内の戦いに確実に勝てるなどと言う甘い見通しで居るとも思えないのですが……。
最悪、追っ駆けて来られたとしても、問題のない準備が為されていると言う事なのでしょう。
一段、一段と近付いて来るゴール。
右足が付き、左足がゴールに辿り着く瞬間、立ち止まるタバサ。但し、その意図は判らない。
「心配はないで」
真っ直ぐに先を見つめながらも、そう伝える俺。それに、当然、彼女の懸念は判っている心算でも有りますから。
俺の確信に満ちた答えに安心したのか、タバサは再び歩を進める。
そして、二人が完全に平坦な場所まで到着してから、更に進む事五歩。
「シノブ」
再び、俺の名を呼ぶ声。但し、この度の言葉には、先ほど感じた不安感を喚起されるような雰囲気は有りませんでした。それは普段の彼女と同じ、俺に安寧を与えてくれる彼女の声。
「なんや」
今回も振り返る事なく、ただ、言葉でのみ答えを返す俺。しかし、先ほどと違い、彼女の握る手には、ほんの少しの力が籠められた。
しかし、それだけ。タバサは問い返す俺に対しての答えを返す事すらない。
もっとも、ただ、それだけでも、彼女の問いたい事は判るのですが。
「何故、振り返ってくれないのか、と問いたいのか?」
俺の問い掛けに、普段通り、首肯いたような気を発するタバサ。
本当に、芸が細かい。
「何故、振り返る必要が有る?」
本当に意味がない事のように答えを返す俺。
石畳は妙に湿り、石畳の先からは腐った水の発する、更に、すえた肉の発する酸っぱいような鼻につんと来る、何とも言えない臭気が漂って来る。
はっきり言うなら、長居したいとは言い難い空間。
「未だ、移動用術式の効果範囲内で、そ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ