第三章
[8]前話
「よいな」
「はい、それでは」
「今からはじめる、はじめなければ何にも出来はせぬ」
家康にしろ阿国にしてもだというjのだ。
「どれだけ大変でもな」
「私もどうしてはじめようと思っていましたが」
それでもだというjのだ。
「いや、はじめてみますと」
「大変でもな」
「存外楽しいです、それでは」
「今から舞うか」
「そのはじめの舞、見て頂けますか」
そのややこ踊りをだというjのだ。
「家康様が」
「是非見せてもらおう」
返事は一つしかなかった、そして家康はその返事を出した。
「これよりな」
「さすれば」
阿国はすぐに着替えそのうえで家康の前でややこ踊りを舞った、それは艶やかでありそれでいてこの世のものとは思えぬまでに美しい不思議な舞だった。
家康はその舞を見届けてから満足している顔で阿国に言った。
「見事じゃ」
「有り難きお言葉」
阿国は舞ったその艶やかな服で家康の前に座し頭を垂れて応えた。
「この舞をはじめております」
「その舞から全てがはじまる」
家康はまた言う。
「江戸も然りじゃ」
「江戸はこれから大きくなり」
「御主の舞もな」
「共に大きく美しくなり」
「この世に栄えようぞ」
二人で笑みを交えさせて話をした、これが二人の出会いだった。
その後阿国は家康から多くの褒美を受け取った、だが阿国のそれからは様々に言われているがよくわかっていない。
その代わり江戸は瞬く間に大きくなり整いまさに天下一の町になった、江戸城も同じだ。
阿国の舞はやがて歌舞伎となり今に至る、どちらもまさに天下一となった。
ある遊び人、金もある真の遊び人の彼は東京で歌舞伎を見てから共に遊んでいる仲間にこう漏らした。
「いや、いいねえ」
「歌舞伎がかい?」
「ああ、東京の街も」
かつて江戸と言われたその街もだというのだ。
「そして歌舞伎もね」
「あれはいい芸だね」
「全くだよ、どちらも楽しめる」
彼は満足している顔で飲みながら仲間に話していく。
「いいことだよ」
「全くだね。まさに天下一の街と天下一の芸」
ここでは日本ではなく世界という意味だ。
「いいものだね」
「だよな。置いていってくれた人達に感謝だよ」
遊び人は意識することなく家康と阿国に感謝の言葉を述べた。それから飲む酒にはやはり彼は気付いていないが二人が残した天下一の味があった、それも濃厚に。
阿国 完
2013・1・21
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ