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レッドバロン
第二章
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「それで戦局を好転させるつもりだったさ」
「俺もだよ」
「俺もそう思ってたさ」
「俺もな」
 それは他の者達もだった、彼等もこう言うのだった。
「そう思っていたけれどな」
「実際に戦場に出てみるとな」
「違うな」
「生きるだけで精一杯だよ」
「全くだ、生きようとするだけでもな」
 どうかと、ルードは苦りきった顔で言った。
「必死だよな」
「陸も空も同じだよ」
「何処も苦しい戦場だよ」
 何時死ぬかわからない、ただひたすら苦しく絶望的な場所だった。そこには浪漫や美麗というものはなかった。
 彼等はそのことを知ってそれで今ここで言うのだった。
「次の出撃でも生きていた」
「敵機を撃墜してな」
「こっちがやらないとやられるからな」
「そんな場所だよ、空も」
「五機撃墜してもな」
 ルードは自分の撃墜数にも自嘲を込めた、司令に笑顔で応えた時よりもその気持ちは冷めたものになっていた。
「それでも次はどうなるかわからないからな」
「例え百機撃墜した奴でも自分も撃墜されるからな」
「そんな場所だからな」
「ああ、少しでも生きていたい」
 これがルードの今の願いだった。
「一瞬でもな」
「だよな、次の出撃でも生きていたいぜ」
「少しでもな」
 こうした話をした次の出撃ではもう誰かがいない、そうしたものだった。
 ルードもそれは同じだ、彼は今の出撃で何とか生き延びたことに神に感謝した。
 しかしそれでもだったのだ。
「次も生きて帰りたいですね」
「随分弱気になってきてるな」
 司令は帰って来た彼の言葉にこう返した。
「気持ちが変わってきたか」
「いえ、本当に一瞬でも気が抜けなくて」
 この話は前に司令にしたものと同じだ、だがそこにあるものはこれまでとは違ったものになってしまっていた。
「生きられなくなりますから」
「少し違うな」
「ですよね、俺もそう思います」
「前はまだ撃墜しようと思っていたな」
「はい」
 だから五機撃墜であることを誇れたのだ、だが今は。
「撃墜しないとこっちがですから」
「そういうことだな」
「はい、死なない為にも」
 生きる、このことが彼の今の至上命題だった。
 だからそれで今も言うのだ。
「俺は敵を撃墜します」
「死ぬなよ、本当に」
「ええ、そういえば最近赤い機体のパイロットがいるらしいですけれど」
「ああ、レッドバロンだな」
「はい、リヒトホーフェン大尉ですが」
「また活躍したらしいな」
 彼のことはドイツ軍だけでなく敵軍でも話題になっていた、どうかというと。110
「一機撃墜だ」
「順調に撃墜数を増やしてますね」
「そうだな、今じゃ英雄だ」
 ドイツの、である。
「この苦しい戦局の中でな」
「そうなっていますね。ただ」

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