第九章
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れさえ守って頂ければ」
「イワノフは私のものに」
「そうです。ですから貴女は何も心配する必要はありません」
またマリーを安心させてきた。
「必ず貴女は幸せになりますので」
「幸せに」
「そうです」
不思議なまでに説得力のある言葉であった。それは言葉を出している彼がその皇帝自身であるからに他ならないからであるがマリーはそれを知らない。ただそれに導かれるだけであった。
「ですから。よいですね」
「わかりました」
憂いの消えた顔と声で答えた。
「それでは私は。このまま」
「そうです」
またその説得力に満ちた力強い言葉を出してみせた。
「ですから。宜しいですね」
「ええ」
マリーは笑顔で頷く。もう迷いはない。
「わかりました。それではイワノフを皇帝として」
「そうです、それだけでいいので」
「はい、それでは御願いしますね」
「ええ、また」
二人は笑顔で別れた。皇帝は一人道に残って意気揚々と酒場に向かうマリーを見て寂しい笑みになった。そうして一人ぽつりと呟くのであった。
「いいものだな」
寂しい笑いと共の言葉だった。
「愛し合うというのは。私も」
ふと自身の国のことを想う。そこにいる者達も。
皇帝は寂しさを抱いて立ち去った。そうしてそこからまた幕が開けるのだった。
イワノフは酒場に入る。すると場が一変した。
「やあ、これはこれは」
「皇帝陛下、ようこそ」
「えっ、皇帝!?」
驚いたのはイワノフだった。その顔で周りに集まってきた皆に対して言う。
「僕が・・・・・・かい!?」
「そうですよ」
「隠しているなんて」
彼等はイワノフがまだ演技をしていると思っている。実際にイワノフは演技が下手な方であるがこの場合はどうにもそれが微妙に彼の立場を立たせてしまっていた。
「恥ずかしがらないで」
「そんな必要ないですから」
「ささ」
そうして杯が出される。
「まずは一杯」
「どうぞどうぞ」
「はあ」
言われるがまま杯を受け取る。そこには黒ビールがなみなみと注がれていた。
「このビールは」
「オランダの酒です」
船大工の一人が恭しい礼と共に述べてきた。
「オランダの?」
「そう、最も美味い酒です」
今度は船乗りの一人がやはり恭しい礼と共に述べるのだった。
「私共の間では」
「おい、こら」
えらく恰幅のいい初老の男がここで出て来た。
「あっ、船長」
「こんな酒出すなよな」
そう言って黒ビールを取り上げる。イワノフ、彼等が思っている皇帝から。
「あっ、ちょっと」
「宜しいですか、陛下」
ビールを差し出した船乗りの頭にハンマーのような拳骨を浴びせながらイワノフに謝る。随分と野太く潮でしわがれてしまった声でだ。
「こんなものを飲んではいけま
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