第三章
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第三章
「ペーターの旦那に乾杯!」
「オランダの酒に乾杯!」
そう言い合ってまた飲みだす。このペーターという男は完全に船大工になっていた。
皆でそうやって飲んでいると。黄色がかった金髪に水色の目をした若い男がやって来た。彼もやけに大柄でしかも毛深い。ペーターの腕の毛と同じ位だ。
「なああんた」
「おお、ペーター=イワノフか」
男は彼の姿を見て楽しげに声をかけてきた。
「あんたも楽しくやってるか?」
「いや、今日はちょっと」
しかしイワノフはその問いにはバツの悪い顔で応えた。
「あまりな」
「何か事情があるのかい?」
「残念だけれどある」
そうペーターに述べる。
「あんたもロシア生まれなんだよな」
「ああ、そうだ」
ペーターはまだ酒を飲みながら答えた。
「さっき話した通りな」
「じゃあ俺と同じなんだよな」
イワノフはそこを強調してきた。
「わかるよな、俺がロシア人だっていうのは」
「勿論」
ペーターは大きく頷いて応えてきた。
「その名前と喋り方だけでな。すぐにわかる」
「そうか。じゃあ話が早い」
イワノフはそう言われてさらに話を滑らかにさせてきた。そうしてまた言うのだった。
「最近ここの市長が五月蝿いから気をつけろよ」
「五月蝿い?何に?」
「何か不審者を探しているらしい」
イワノフはこう述べる。
「素性の知れない奴がいるかどうか探しているそうだ」
「そんなの港に行けば幾らでもいるだろうに」
ペーターはそれを聞いてすぐに首を傾げさせた。そのうえでの言葉だった。当時の船乗りは港で集まってそのままということが多かったので得体の知れない荒くれ者も多かったのだ。何を隠そうペーターもそうとしか見えはしない。ロシア人とわかるだけで。
「また変なことをするな」
「それでもだ。お互い注意しような」
「お互い!?」
またイワノフの言葉に目を丸くさせる。
「どういうことだい、お互いっていうのは」
「あんたも俺と同じなんだろ?」
イワノフはそう彼に尋ねてきた。
「だから。言ってるんだけれどな」
「あんたは以前は何をやっていたんだ?」
「偉そうなことは言えないがな」
「ああ」
それに応えながら話を聞き続ける。
「俺は脱走兵なんだよ」
「そうだったのか」
「ああ、内緒だぞ」
ペーターが何者なのか特に考えずに言葉を続ける。
「それにあんたもそうなんだろ?」
「わしが?」
自分の左手で自分を指出して言う。
「脱走兵だと?」
「そうなんだろ?それでわざわざここまで逃げて」
「まあそんなところか」
自分でもそれを否定しようとしない。何か否定できないものがあるようだった。
「わしもまあそうだな」
「ほらな、だからなんだよ」
イワノフはさ
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