第二章
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第二章
「今のところ本当に噂でしかないですし」
「ロシア政府は何と言っていますか?」
皇帝がいるロシア政府について言われた。肝心の当局である。
「彼等は」
「全く何も」
それはすぐに否定されるものであった。
「言いはしません」
「まあそうでしょうな」
これはすぐに納得がいったことであった。
「彼等とて愚かではありますまい」
「わざわざ自分達でそんな話を言いはしませんな」
そう言い合って自分達で納得する。
「ただ」
「そうですな」
しかしそれでも言うのであった。彼等の間で。
「噂ではないかも知れませんな」
「そうですな。そうであれば」
声も顔も笑いだしていた。まるでそこに楽しみがあるように。
「面白いことになりますな」
「さて、ピョートル帝」
渦中の人物について言及が為される。
「どういった行動に出ているのか」
「実に楽しみであります」
そんな話が為されていた。しかし詳細は今のところは誰も知りはしないのであった。
オランダの港街ザールダム。ここの酒場にやけに大柄でキザな感じに髭を整えた男がいた。男は船大工のラフな服を着て威勢良く肉を食べ酒を飲んでいた。そうして周りにいる仲間達と楽しくやっていた。
「ほお、そうやるのか」
仲間の一人から説明を受けてやけに関心していた。
「歯を引っこ抜くのはそうだな」
「ああ、思い切り力を入れてな」
「わかった」
男は仲間の説明を聞いて納得して笑っていた。
「引っこ抜くのか。思ったより簡単だな」
「ああ。しかしあんたも変わってるな」
仲間はそう男に言う。
「わしがか?」
「ああ。歯の抜き方を知りたいなんてな」
「他に骨接ぎも勉強していたよな」
「面白いからな」
彼は笑って仲間達に述べる。
「だからだ。身に着けたくなった」
「そういえばあんた興味のあるものは何でも自分でするよな」
「ああ」
ビールを腹の中に流し込んでから答える。
「まずは自分で身に着けてだな。何でも」
「また凄いね、それは」
「じゃあこの船大工もか」
「わしは船が好きなんだ」
手づかみで焼肉を食い千切っている。その姿は荒くれ者の多い船大工達の中でもとりわけ荒っぽい。しかしどういうわけか妙な気品も感じられた。
「だからな。どんなものか知りたくてな」
「またそれは」
「いやあ、実に面白い」
太い腕を振り回して言う。丸太そっくりの腕だ。
「病み付きになる、これは」
「そんなに喜んでもらって何よりだ」
「そういやペーターさんよ」
「うむ」
男の名前が呼ばれた。
「そういえばあんた生まれはロシアだったよな」
「ああ、そうだぞ」
彼は仲間の問いに答える。
「ここよりもずっとずっと寒い国だ」
「オランダよりもか」
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