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船大工
第二章
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「海が凍るのだ」
 そう彼等に説明する。
「どうだ、凄いだろう」
「いや、何度聞いても」
 オランダの船大工達はそれを聞いて驚きを隠せない。彼等の世界では海が凍るなぞ考えられない、想像の範囲の外だからだ。これがまず驚きだった。
「凄い国だよ、ロシアは」
「それで男達はあれか」
 今度はロシアの男達についての話だった。
「皆あんたみたいにでかくて」
「ああ、わしは特別でかい」
 彼は笑って自分の身体のことを説明する。確かに異様に大きい。
「けれどまあ皆でかいな」
「で、髭は」
「ここに最初に来た時のわしみたいにな」
 自分の奇麗に切り揃えられた髭をしゃくりながら述べる。髪の毛の色と同じで異様なまでに黒々としている。しかも剛毛であった。
「長く伸ばしているのだ」
「何か今時珍しいね」
 オランダの船大工達はそれを聞いて目を丸くさせる。
「そんなに髭を伸ばすなんて」
「寒いからかね、やっぱり」
「まあそうだな」
 笑顔で仲間達にまた説明する。
「しかし。それも時代遅れかも知れないな」
 説明しながらふと呟く。
「国に帰ったら。いっそのこと切らしてみるか」
「切らすって?」
「あっ、何でもない」
 仲間の問いに誤魔化して返す。
「気にしないでいいからな」
「そうか。それじゃあ」
「で、女も髭が生えるのか」
「これがな。生えるんだ」
 ここで困った顔を作る。
「オランダでは髭を生やした女はいないのだな」
「いや、それはないな」
「うちは不細工な女が多いとはいうが」
「ははは、ロシアの女はいいぞ」
 自国の女の自慢に入った。
「大柄で美人でしかも気立てがきく」
「髭以外はいいんだな」
「ロシア女は最高だ。しかし」
「しかし?」
「酒の優劣は難しいな」
 そう述べながらビールを流し込む。まるで鯨のように飲み干していく。
「いや、幾ら飲んでもな。わからんな」
「それにしてもあんた飲むねえ」
「いつもいつも」
「ロシアでは酒を飲まないと死ぬ」
 本当のことだ。寒くて飲まないとやってはいけないのだ。ロシアではかなりの飢饉でも農民はまだ耐えるが酒がなくなると暴れるとまで言われている。
「だからわしは生きる為に飲むのだ」
「そうだな。じゃあ」
「うむ」
 皆で木の杯を高々と掲げる。そして言うのは。

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