第十二章
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すな」
「いえ、違います」
それはすぐに否定された。
「残念ですが」
「何と、違うのですか」
「当然だよな」
「全くだ」
自分に都合のいいことを妄想する市長に議員達はまた呆れ顔になって溜息をついた。
「何処をどうやったらそんな勝手な発想が」
「そんなのだからこの街は」
「しかしですな」
ここで皇帝の言葉は意外な方向に転んだ。
「貴方にも関係はあります」
「私に?」
「そうです」
にこにこと笑って彼に告げる。これからのことを楽しむかのように。
「一体どんな関係が」
「さあ監督長」
イワノフに声をかけた。
「どんどん読んでくれ給え」
「はい。ええと」
皇帝に言われてさらに読む。するとそこに書かれているのは。
「市長の妹マリーをイワノフの妻とする・・・・・・って」
「えっ!?」
「私とイワノフが」
皆もマリーもまたしても驚いた。とりわけ当の本人達と市長は。
「あ、あの陛下」
「これはまことですか!?」
「私は幸せなことでは嘘は言わないのだよ」
皇帝は大きな声で笑ってから答えた。その気品のある顔立ちや風貌からは想像できないガラッパチな笑いであった。しかしどうにも妙に様になっていた。
「そうなのですか」
「そう。だから監督長、マリーさん」
「はい」
二人は畏まって皇帝に顔を向ける。
「これからも末長く幸せにな」
「有り難き幸せ」
「慎んで」
「しかし何とまあ」
皆これまでのことで驚きを隠せない。楽しいやら呆然とするやらでどうにも狐につままれたような顔になってしまっていた。皇帝はその彼等に対してさらに告げるのであった。
「そして皆さん」
「陛下、何か」
「私はこれでロシアに帰ります」
「祖国にですか」
「そう、愛する祖国へ」
望郷の笑みが浮かび上がった。その笑みをたたえて皆に告げる。
「今から帰ります。ですが」
「ですが?」
「ここでのことは生涯に渡って忘れません」
望郷の念はロシアに対してだけではなかったのだ。この港町に対しても。彼にとっては忘れられない素晴らしい場所となっていたのである。
「皆さんと船大工として共に過ごした日々は決して」
「覚えていて下さるのですね」
「ええ、これからもずっと」
後ろにロシアの船達が現われる。それをバックにして述べる。
「永遠に」
「何と有り難い」
「では我々もまた」
「覚えて下さるのですか」
これは皇帝にとっては思わぬ言葉であった。彼等にも覚えてもらえるとは。
「当然です」
「我等と共に笑い、楽しまれた陛下を」
実際に彼はここでの生活をかなり楽しんでいた。彼等もそれを知っているからこそあえて言うのだ。
「どうして忘れることができましょう」
「だからこそ」
「ええ。心地よい別れを」
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