第三章
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告げた。見れば朝八もまだ飲んではいない。
「さもないと御前さんまたえらいことになるよ」
「そうですね。それで、ですけれど」
「ああ、どうしたんだい?」
「あたしもそろそろ身を固めた方がいいですかね」
首を前にやり肩を落とした感じの姿勢で朝一に問うた。店の中は客で賑わっているが飲んでいないのは二人だけだ、肴の刺身にも手をつけていない。
「やっぱり」
「そうだねい。所帯が一番だからねい」
「一番?」
「そうだよ。女房と子供が芸の一番の肥やしなんだよ」
「そうなんですか」
「大阪の坂田三吉さんを見るんだよ」
朝一は将棋の話だがあえて例えとして出した。
「あの人だっていいかみさんがいてあそこまでなったんだよ」
「だからですか」
「そうだよ、所帯は持つべきなんだよ」
こう言ってだった。朝一は朝八に告げる。
「それで落語家としてやっと一人前だからね」
「じゃあ相手を探します」
「いい娘を知ってるよ。小料理屋の娘さんでね」
「その人とですか」
「所帯持ちねい、そしてそこから芸を磨くんだよ」
「わかりました、それじゃあ」
朝八は朝一のその言葉に頷いた。こうしてだった。
彼は所帯を持ってそこから芸を磨いた、女房や子供とのやり取りがそのまま芸の肥やしになったのだ。
所帯を持ってからも酒と女は楽しんだ、だがそれはあくまで程々でありもう朝も昼もではなくなっていた、それがかえって彼の芸をよくしたことについて朝一はこう言った。
「そういうことだよ、所帯の肥やしはどれだけあってもいいからね」
「このままいればいいんですね」
「そうだよ、所帯から精進するんだよ」
こう朝八に言うのだった。芸の肥やしは色々だが過ぎてもよいものもあるのだ。
かゆみ 完
2012・11・30
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