第十章
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は心の中でまた会心の笑みを浮かべる。彼にとって実に好都合なことであった。
(これで帰られる。運が向いてきたな)
「字は読めたかな」
イワノフは皇帝に問うた。この時代文字が読める者なぞそうはいはしない。船乗り達で読める者は殆どいなかった。実はイワノフは読めるのだ。
「字ですか」
「左様。どうかな」
「ええ、まあ」
皇帝はすぐに答えた。ここでは素直に答えたのだ。
「一通りは」
「ならいい」
イワノフは彼の返答を聞いて満足気に答えた。それこそ彼が望んでいた返答だったのだ。
「君は私の秘書だ」
「秘書ですか」
「秘書としてロシアに連れて行ってあげよう。それでいいね」
「有り難き幸せ」
(ふむ、ならばいい機会だな)
偽の皇帝の側にいられることに機会を見た。ここで彼は動いた。
(ここで)
「あの」
恭しくイワノフに声をあげる。大きな身体を二つに折って。
「何かな」
「実はこれをですね」
懐から何かを出してきた。それは一枚の封書であった。
「これは?」
「後でお開け下さい」
そう彼に耳打ちする。
「宜しいですね」
「この手紙をか」
「そうです」
また彼に告げる。
「そうすれば幸せになれますので」
「それはいい」
いい気分のところでさらにこう言われて。イワノフは天にも登らんばかりの気持ちになった。それは晴れやかな表情ですぐにわかった。
「幸せがまた。じゃあ」
「ただしですね」
何か今にも開けようとするのを見てそっと忠告する。
「んっ!?何かな」
「今は開けないで下さい」
耳元で告げた。
「いいですね。ヨットが港に出た時に」
「ヨットがか」
「そうです、今イギリス公使から頂いたヨットです」
既に彼の頭の中ではこれからの流れが完全にできてきていた。後はそれを忠実になぞるだけである。それにイワノフも入れたのである。
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