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船大工
第一章
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ではですな」
 そうなれば問いの方向が変わるのは自明の理であった。そしてその問いの内容は。
「今のロシアの主は一体」
「誰なのでしょうか」
「ピーターというらしいです」
「ピーターでしょうか」
 聞きなれないようでいて何処かで聞いたことのある名前であった。
「左様、ロシアの読み方ではピョートルというそうです」
「ふむ、ピョートル帝ですか」
「してどのような御仁でしょうか」
「それがですな」
 ここで彼について話す者は一様にして顔を顰めるのであった。何か話したらまずいことでもあるようにである。それがはっきりと顔に出ていたのだ。
「どうにも破天荒な御仁でありまして」
「破天荒なとは」
「はい。何か興味を持つものがあれば」
「ふむ」
「自分で身に着けないと気が済まないそうです」
「それはどういうことですかな」
 それを聞いてもどういうことかわからない者もいる。それで尋ねると。
「あれです。銃を自分で撃ち」
「王がですか」
「いえ、皇帝です」
 これにも訂正が入った。
「皇帝ですか」
「ロシアは自分達をビザンツの後継者を任じていますので」
「ああ、それでですか」
「成程、神聖ローマ帝国と同じですな」
「はい」
 神聖ローマ帝国は西ローマ帝国の後継国家とされていた。そうした意味でこのロシア帝国は東ローマ帝国なのである。少なくともロシアの主張ではそうなのだ。
「しかし皇帝が自ら銃を」
「それだけではありません」
 しかもまた訂正が入った。
「大砲も自分から撃ちます」
「大砲までですか」
「他にはボートを自分で漕いだり木を切ったり」
「またそれは」
 それを聞いて驚かない者はいなかった。確かに武術もまた貴族、君主としての嗜みだが銃となると少し違う。ましてや大砲を撃つなどとは。流石にこれには驚いたのである。
「随分と変わった皇帝陛下ですな」
「何ともはや」
「それでロシアでは何かと騒動を起こしているようです」
 皇帝についてはこれが何かと有名であった。
「そしてですな」
「まだありますか」
「ええ。これは噂ですが」
 言葉が少し小さくなる。まるで内緒話をするかのように。
「何でもオランダにお忍びで来ているそうです」
「オランダに!?」
「それが何故かはわかりません」
 そう前置きがされる。そしてまた言われる。
「ただ。噂でしかないので」
「しかし一国の皇帝が何故オランダに」
「また訳がわかりません」
「何でも西欧の優れたものを学びたがっているそうです」
 こう言われた。
「ロシアとしましては。まだまだ未開発らしくて」
「そうなのですか」
「確かにオランダは何かと進んでいますからな」
 かなり以前からフランドルやネーデルラントといった辺りは商業が盛んで欧州では経済
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