弐ノ巻
霊力
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、ぐらりと地面の感覚が分からなくなって、兄上が目の前にいた。
戸惑った顔であたしに歩み寄る。
「瑠螺蔚。いったい何があったんだい」
あたしはざっとあたりを見回した。兄上の室のようだった。
離れからは一番遠い。普段通りの態度を見ると、もしかしたら騒ぎに気づいていないのかもしれない。
「兄上、兄上…姉上様と義母上が…お願い助けて!」
あたしの様子にただ事ではないと思ったのか、兄上の表情が緊張する。
「落ち着くんだ。二人がどうしたの?」
「斬られたの…離れで…二人とも、動かなくて…」
「掴まって」
兄上はあたしの腰を掴んで引き寄せた。また、ぐらりと自分がどこにいるのか分からなくなるような浮遊感があって、気がついたらあの血染めの部屋にいた。鼻を突く生臭い血の臭い。
「…!」
部屋には3人の下男がいて、一様に大きく目を見開いていた。
「俊成様と瑠螺蔚様…!?いま、どこから…」
「こちらの襖からだ。どいてくれ」
と言って兄上は下男に囲まれていた人を見た。あたしは息がとまった。どこかで、あたしの見たことは全て夢だったんじゃないかとも思っていたけれど…。
だらんと力なく畳の上に伸びる手。その手すら血に塗れている…。
「二人の新しい衣と、温めた布と湯を沢山持ってきてくれ。急がなくていいから」
兄上はその場にいた下男にそう言った。
「俊成様…その、大変申し上げにくいのですが…お二人は…」
「大丈夫だ。わたしは医の心得がある。必ず助ける。行け」
下男に向かって言いながら、茫然と声も出ないあたしの肩を安心させるように叩いた。
止血…というか、布は傷口に巻かれていたが、その布すら滴るほど真っ赤に濡れている。姉上様は正面から袈裟がけに斬られたようで、義母上よりも傷は深そうだった。あたしは唇が震えた。
慌てたように下男が出て行くのを待って、兄上は義姉上の太刀傷の真上に手を翳した。
すると、見る見るうちに、深く裂けていた太刀傷が癒えていったのだ。
「すごい、兄上…!」
兄上は姉上様の傷をどんどん消していった。
姉上様が助かる。義母上が助かる…!
兄上は姉上様の傷をあらかた治すと、今度は義母上の傷を治そうと向き直ろうとした。その時、ふと兄上はふらついた。
あたしは咄嗟に兄上を支えて、思わず息をのんだ。
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