第一幕その九
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
ッと睨み返した。
「貴方が馬鹿だってことはとっくの昔にわかってるわよ」
(これはまた手厳しい)
ベルコーレはそれを見てまた思った。やがてこの場に仕事を終えた村人達と荷物を整え終えた兵士達がやって来た。
「おや、またネモリーノか」
村人達は彼が慌てふためいているのを見て呟いた。
「またアディーナに言い寄って」
「いつも振られているんだからいい加減諦めたらいいのにね」
彼等はクスクスと笑いながらそう話をしている。兵士達はそれを興味深そうに聞いている。
「今度は一体何だ」
「どうせまた馬鹿なことをしてアディーナを怒らせたんだろう」
彼のことは村では有名であった。やはり何処か抜けているので村人達にも困ったものだと思われているのである。
「さあ軍曹さん」
村人と兵士達が彼等を遠巻きに見守る。アディーナはそれを背にベルコーレに対して言った。
「早速公証人のところへ行きましょう」
「わかりました」
ベルコーレは恭しく敬礼をして答えた。
「ではすぐに」
「ど、どうしよう」
ネモリーノはそれを見てさらに狼狽の色を深めた。
「そうだ、こういう時には先生だ」
ふとドゥルカマーラのことを思い出した。
「先生なら何とかしてくれる」
辺りを必死に見回す。だがここにいる筈もない。
「一体何処に」
「またわけのわからないことをしているな」
村人達はそんな彼を見て言った。
「いつものことだがあいつのあれは変わらないな」
「悪い人じゃないのにね」
「本当」
笑いながら彼を見ている。だがネモリーノには目に入らない。
「さて、どうするのかしら」
アディーナは勝ち誇った目でそんな彼を見ている。
「私を怒らせたんだから当然よ。精々苦しみなさい」
悠然と慌てふためく彼を見下ろしている。だがすぐにその目の色は変わった。
「そして反省したら許してあげる。それまで精々困りなさい」
ネモリーノは狼狽し慌てた様子のままその場を後にした。村人達はそんな彼を呆れて、そして困ったような笑いを浮かべて見送った。
「本当に困った奴だよ」
最後にこの言葉が何処からか聞こえてきた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ