第一幕その四
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「恋が恋を打ち消すのよ。毒が毒を打ち消すようにね。少なくとも私はそう考えてるわ」
「それは嘘だ」
ネモリーノはその言葉に首を横に振った。
「僕は昼も夜も、寝ても覚めても君のことだけを考えているんだから。この気持ちは真実なんだ」
「それも一瞬のこと、明日起きてみたら私への想いも変わっているかも知れないわ」
「そんなことはないよ」
「言いきれるの?」
「勿論さ」
彼は言った。
「死ぬまで、そして死んでからも君を愛する。それを何時でも何処でも誓うことができるよ。それでも駄目なのかい!?」
「他の人を愛しなさい」
「できるものか、そんなこと」
ネモリーノはあくまで引き下がらない。
「君をお僕のものにするまでは」
「他の人を愛しなさい」
アディーナはそんな彼に対してまた言った。
「できるものか」
ネモリーノも言った。
「じゃあ諦めなさい、じゃあ仕事があるからこれでね」
業を煮やしたアディーナはその場を軽やかに立ち去った。ネモリーノはそんな彼女を追おうとするが脚が遅くて追いつかない。結局逃げられてしまった。
「ああ」
ネモリーノは見えなくなっていく彼女の後ろ姿を見て溜息をついた。
「いつもこうだ」
その目には涙すら浮かんでいた。
「どうして僕を受け入れてくれないんだ、確かに僕は頭も悪いし見てくれもよくない。けれど」
顔をあげた。そしてアディーナが消えた方を見る。
「君を想う気持ちは誰にも負けないのに」
彼はとぼとぼとその場を後にした。そして自分の畑に戻るべく広場を通りがかった。彼にも畑があるのだ。
広場に着くと何やら人が集まっている。ネモリーノはそれを見てまず思ったことは兵隊達が遊んでいるのかな、ということであった。
「何だろう」
見れば違うようだ。人だかりの真ん中で誰かが話しをしている。
「さあさあ皆様」
立派な身なりの男が村人達を相手に話をしている。老人で品のよさそうな顔立ちに洒落た口髭を生やしている。一目で何やらあやしそうな雰囲気も出しているがネモリーノはそうは思わなかった。
「お医者さんかな」
何故かふとそう思った。
「いや、違うかな」
考えが変わった。
「何なんだろう、変わった人だなあ」
世間知らずな彼ではわかる筈もなかった。少し世の中を知っている者ならば彼が胡散臭げな人間だとすぐに見破ったであろう。それ程あやしい外見に物腰の男であった。
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