第二幕その八
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持ちに素直に従うだけなんだ」
彼は顔を上げ、目を閉じて言った。
「他に何があるというんだい?」
「ネモリーノ」
アディーナはそんな彼に対して強い声で話し掛けた。
「聞いて頂戴」
ネモリーノはそれには答えなかった。だが心の中で思っていた。
(聞かない筈ないだろう)
それが彼の本音であった。
(君の言葉なんだから)
彼は聞かないふりをしながら聞くことにした。
「何故行くの?」
「自分の心に従うからさ」
素っ気なく返した。
「冗談は止めて」
だがそれはアディーナの強い言葉の前に打ち消された。
「何故行くの?兵隊になる決心をしたの?」
「そうさ」
ネモリーノは彼女に言った。
「それで僕の運命をよりよく出来ると思ってね」
「違うわ」
アディーナは彼のその言葉を否定した。首を横に振った。
「貴方は自分に嘘をついているわ。私にはわかるわ」
「馬鹿なことを」
「いいえ、馬鹿じゃないわ。私は心から願っているのよ、貴方のことを」
「そんな出まかせを」
「出まかせで契約書を買い戻す?」
アディーナは言った。
「貴方の人生を心から案じているから・・・・・・だから買い戻したのよ」
「それもいつもの軽い気持ちだろう?また僕をからかっているんだ」
「黙って聞いて!」
その声が強くなった。ネモリーノはその声の前に完全に沈黙してしまった。
「よく聞いて、貴方はもう完全に自由よ。貴方を縛るものは何もないわ。そう、何処へでも行くことができるのよ」
「何処へでも」
「そうよ、だから安心して。もう誰も貴方を縛ったりしないわ」
「誰も」
「ええ。だからもう何にも悩まされることはないわ」
「何にも」
「安心してね。それは」
「うん」
ネモリーノは頷いた。ここでアディーナは一呼吸置いた。
(いよいよか)
彼はそれを見ながら思った。
(やっと彼女が言うんだ、僕を好きだって)
だが話はそれ程簡単なものではなかった。
「さようなら」
アディーナはそう言うとプイ、と背を向けた。
「え」
これにはネモリーノも呆然としてしまった。
「あの、アディーナ」
そして背を向けた彼女に対して問い掛けた。
「何?」
アディーナはそれに応えて顔を向けて来た。見返りだ。
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