第二幕その三
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ぬのは絶対に嫌だと思っていたし、そうでなくとも軍隊での厳しい命令で殴られたりするのも怖かった。やはり軍隊には不向きであった。
「しかも女の子にもモテモテだ。いいことづくめだぞ」
「けれど僕は」
「お金が欲しいのだろう?」
ベルコーレはここでまた問うた。
「確かにそうですが」
「なら迷うことはないだろう、すぐに入隊の願書にサインするんだ。それだけで二十スクード入るぞ」
「すぐに」
「そうだ。そうすれば明日から御前さんはもてもての軍人だ」
(絶対検査で落ちるに決まっているがな。その時は借金にさせてもらおう)
流石に善意で金を渡すつもりはないようである。わりかししっかりとしている。
(明日からここともお別れか)
ネモリーノは周りを見渡して思った。
(叔父さんとも、村の皆とも。そして)
やはり彼女の顔が頭に浮かんだ。
(アディーナとも。けれどそれしかないんだ)
彼でも現実はわかっていた。いや、わかっているつもりであった。
(アディーナを僕のものにする為には)
「どうだ、決めたかい?」
ベルコーレはまた問うた。
「すぐだぜ」
(そうでなきゃ借金にさせてもらうがな。二十スクード位何とかなるだろう)
彼はネモリーノを誘う。執拗な程だ。
(早く決めろ、そうすりゃ御前さんは助かるんだぞ)
心の中の言葉は決して言わない。ネモリーノもそれを知るよしもない。
「二十スクードなんですね」
ネモリーノはここで顔を上げて問うた。
「そうだ、二十スクードだ」
ベルコーレは答えた。それを聞いてネモリーノはようやく決心した。
「わかりました」
「よし」
ベルコーレはそれを受けて頷いた。そして懐から一枚の紙とインク、そしてペンを取り出した。
「これにサインしてくれ。そうすれば二十スクードは御前さんのものだ」
「はい」
ネモリーノはペンを受けた。そして書類を手にする。しかし。
「あの、すいません」
実は彼は字が書けないし読めないのだ。ベルコーレはそれを見てニヤリと笑った。
(これで落選は確実だな)
彼はここで嘘を教えることにした。
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