原作開始前
EP.7 ワタルのS級試験(前編)
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SIDE ワタル
寒い。
吐く息は白く凍り、足元は雪で動き辛い。
カチカチと鳴りそうになる歯を食いしばり、対象の死角で鎖鎌を手に気配を殺す。
視界が悪い中、対象の呼吸と思考を感じ取ろうとして集中。自分のものと合わせる。
誤差を修正……大丈夫、気付かれていない。隠密は得意だ。
そして、気が充実した瞬間……一気に走り出した。
= = =
前の状況から1週間ほど前。
俺が妖精の尻尾に入って3年ほど経った、X779年、12月中旬。
「なんだか、やけにギルドが騒がしいな……」
騒がしいのはいつものの事だが、最近は妙に浮ついている。
何かあっただろうか、と考えていると、エルザに答えを言われた。
「忘れたのか? そろそろアレだろう?」
「アレ? ……ああ、アレか!」
思い出した俺は掌を軽く叩いて言った。
寒いと思ったらもうそんな時期か。このギルドにいると本当に時が過ぎるのが早く感じる。
……年寄り臭くなったので、考えるのを止めて、言った。
「今年は誰が選ばれるのかねぇ?」
「どの口がそれを言うんだか……最有力はお前だろ、ワタル」
「いや、俺が出る!!」
「ナツにグレイか……いや、エルザかミラ辺りもあるんじゃないか?」
ナツとグレイが会話に交じり、予想を並べた。
「いや、私はまだまだだよ。出るとしたら……やはりワタルだろうな、実力も実績もある」
「そうか?」
エルザにも言われ、首を捻ったが……悪い気はしなかったため、言い返す事はしなかった。
そして……
「聞けい、貴様等!!」
マスターの声が響き、ざわざわとしていた皆が水を打ったように静まり返った。
「コホン……妖精の尻尾、古くからのしきたりにより……」
そう、これがギルドが妙に浮ついていた理由だ。毎年この時期は……
「S級魔導師昇格試験出場者を、これより発表する!!」
S級魔導師昇格試験、通称S級試験が行われるからだ。
「今年の開催地は……霊峰ウェルスじゃ。そして今年の参加者は……1名のみじゃ!」
霊峰ウェルス。フィオーレ西部に存在する、国内で最高の高度を誇る霊峰だ。
霊峰の名に違わず、その山は魔力で満ち、冬である今は激しい吹雪が吹いているだろう。
まあそれはいい。そんな事より……1人だけか?
「ウェルス!? あそこ今滅茶苦茶寒いだろ!?」 「しかも1人って……」「やっぱりあいつか?」
「そうだろうな……」……
「ゴホン。静まれぃ、貴様等!……その名は……ワタル・ヤツボシ、じゃ!!」
マスターが口にした名は……俺だ
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