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チェネレントラ
第一幕その三
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第一幕その三

「御父様」
 二人の娘は彼を見ると笑顔で彼に駆け寄ってきた。だが彼はそんな娘達を不機嫌な顔で見た。
「えい、いい」
 彼は手で娘達を追い払った。そしてやはり不機嫌な声で言った。
「御前達は今日限りこのドン=マニフィコの娘ではないわ」
「どうしたの?」
「また何かあったの?」
 だが娘達は動じてはいなかった。づやらいつもこんなことを言っているらしい。見ればその声も顔も不機嫌なだけで怒っているというわけではなかった。憮然とはしていたが。
「全ては御前達のせいだ」
「私達の?」
「そうだ。今朝のことを覚えているか」
「今朝?何かあったっけ」
「さあ」
 二人は顔を見合わせてそう言い合った。
「覚えておらんのか、あの時のことを」
「朝・・・・・・。ああ、あれね」
「あれは御父様が悪いんじゃない。用事なのに何時までも寝ているから」
「口ごたえはいい、あの時わしはいい夢を見ておった。男爵たる者に相応しい夢をな」
「ふうん」
「どんな夢なの?」
「では言おう。わしのその素晴らしい夢を」
 やたらともったいぶって話す。常識で考えてそう偉そうに話すことでもないが彼は異様に胸を張って話をはじめた。男爵らしい威厳を醸し出しているつもりだがやはりその仕草も表情もユーモラスなものであった。彼はそれに気付いているのかいないのかそうした動作を繰り返していた。大袈裟な身振り手振りで話を続ける。
「光と闇の狭間にわしはいた。そしてそこで一頭の素晴らしいロバを見つけたのだ」
「ふんふん」
 二人の娘はそれを興味深そうに聞いている。ふりをしているだけであった。
「そのロバに無数の翼が生え、そして飛んだのじゃ。それから鐘楼の上で玉座に座るように鎮座した。そこで鐘の音が鳴った。ところがじゃ」
 ここで娘達を睨んだ。
「御前達が起こしてくれたのじゃ。それから慌てて家を出た。じゃが頭にあるのはその夢のことばかり」
「それについて知りたいのね」
「そうだ」
 彼は頷いた。
「一体どういう意味なのかな。鐘はおそらく祝いだろう」
「うん」
「羽根は御前達で飛ぶのは今の生活におさらばということじゃろう。最後のロバはわしじゃ。わしは栄誉を極める身分になるのじゃ」
 かなり自分に都合のいい解釈をする。だがそれによって彼は得意の絶頂に入った。
「どうじゃ、素晴らしい夢じゃろうが」
「何かこじつけばっかりに聞こえるけれど」
「ねえ」
「ええい、五月蝿いわ。とにかくじゃな」
 彼は娘達が賛同してくれないのでさらに機嫌を悪くさせた。
「わしは栄華を極めるのじゃよ。多くの孫達に囲まれてのう」
「ふうん」
「じゃあお祖父ちゃんになるのね」
「何を言う、わしはまだ若い」
 ムッとした顔でそう返す。
「しかしそれもこれ
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