第5話 紅き瞳
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
女声で、そう答えが返される。
上半身のみを起こしながら、両の掌底で目をこすり、無理にでも眠気を飛ばそうとする俺。但し、この程度の事で眠気が飛ぶ訳がない。
まして、この女声は、長門有希と名乗った少女型人工生命体が俺を起こしてくれている、と言う事なのでしょう。
そうして、二、三度、そう言う事を繰り返した後、寝ぼけたままの雰囲気でも、ようやく瞳を開く事に成功する。其処まで要した時間は、おそらく十分ほど。
……そして、その瞬間。メガネ越しの暖かなとは表現し辛い瞳で、真っ直ぐに俺を見つめる整い過ぎた容貌を持つ少女と、その視線が絡み合った。
「……あ、え〜と、あのな。朝飯は何が食べたい?」
少し視線をずらし、在らぬ方向に焦点を移しながら、そう聞く俺。
そう。寝惚けていても、流石に彼女に真っ直ぐ見つめられると、怯みますよ。
尚、当然の事ながら朝食の事を問い掛けはしましたが、俺自身は、後、二時間ほどは何も食べたくはないのですが。
しかし……。
「必要ない」
何故か、長門がそう答える。相変わらず、俺の顔をそのやや冷たい、しかし、とても綺麗な瞳に映しながら。
これは、朝食は取らない主義だと言う事なのでしょうか。
そう思い、更に長門に問い掛けようとした俺なのですが、
「朝食はわたしが作る」
……と、俺の問い掛けの前に彼女はそう続けました。
成るほど。昨日の夕食は俺の方が準備したので、朝食は彼女が準備する、と言う訳ですか。それならば、
「そうか。なら、何か手伝おうか?」
大分、頭のはっきりして来た俺が、そう問い掛ける。しかし、首を二度横に振る長門。
そして、
「必要ない」
……と答え、タオルと新しい歯ブラシ。それに、こちらも新しいカップを差し出して来た。
うむ。意外に世話焼きさんの側面を見せている長門さん。後は歯間ブラシかフロスが欲しいトコロですが、それは贅沢と言う話ですか。
いや、今までの彼女が発して居る雰囲気から、少々無愛想で、他人の事などに頓着しないタイプの性格設定のように思っていたけど、彼女に心が発生しているのだとしたら、それは付喪神などに代表される使役される事に喜びを感じるタイプの心の可能性も有りましたか。
彼女が何者に造られた存在で、何の目的の為に存在しているのかは判りませんが、それでも、元々使役する為に造られた存在で有る事は間違いないと思います。それならば、そのような存在に自然発生的に心が宿ったとするのなら、使役される事に喜びを感じる付喪神系の心が宿る可能性が一番高いはずですからね。
「そうか。そうしたら、さっさと顔でも洗って来ますか」
長門が差しだして来ていた洗面道具一式を受け取る俺。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ