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サロメ
第二幕その九
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第二幕その九

「他のものではどうじゃ?」
 その必死の顔でサロメに対して言う。
「男の首なぞ何になろうか」
「いえ」
「エメラルドではどうじゃ」
 拒むサロメにカードを出してきた。
「ローマ皇帝より頂いたものじゃ。眩く翠に輝く美しいエメラルドをやろう。それでどうじゃ?」
「そのようなものはいりませぬ」
 サロメはそれも拒む。
「では孔雀でどうじゃ」
 次のカードを出してきた。
「白い身体と黄金色の嘴、そして紫の脚を持っておる。その白い孔雀をどうじゃ」
「いえ」
 だがそれも拒む。
「ヨカナーンの首を」
 またサロメは言った。
「それを」
「それではのう」
 慌ててまたカードを切り出してきた。
「銀の糸でつなぎ黄金の網にかけられた真珠のネックレスじゃ。どうじゃ?」
「そんなものには何の価値もありませぬ」
 やはりサロメはそれも否定する。
「ヨカナーンの首を」
「アメジストはどうじゃ?それともトルコ石か」
 必死に自分が持っている宝物を出す。しかしそれは何の効果もなかった。
 サロメの言葉は変わらない。あくまでヨカナーンの首を願うのであった。王はいよいよ持っている豊富なカードをなくしてきた。
「王位をやろうか」
「何とっ」
「陛下、それは」
 周りの者もこれには言葉を失う。
「それだけはなりませぬ」
「許されぬことです」
 ヘブライでは女は蔑まされている。その女が王になるということは考えられないことだ。それをあえて言ったところに王の苦しみがあった。
「それをやろう。だからこそ」
「王位もいりませぬ」
「おやおや」
 王妃は遂に最後のカードが失われたのを見てまた笑う。
「これはこれは」
「私が欲しいのはただ一つです」
 そして言うのであった。
「ヨカナーンの首を」
「他には何もいらぬか」
「いりませぬ」
 その言葉も定まっていた。
「ですから」
「わかった」
 項垂れた顔で述べた。
「それをやろう。よいのだな」
「有り難き幸せ」
 目を細めて笑う。
「それではすぐに」
「わかりました」
 側に控えていた一人である大柄な男がそれに応えた。
「それでは」
「うむ」
 王は沈んだ顔で答える。
「頼むぞ」
「はい」
 男は巨大な剣を兵士達から受け取り強張った顔で宴の場を後にした。その後ろを従者達が銀の大皿を手について行くのであった。
「もうすぐね」
 サロメは彼等を見て目を細めるのであった。その細まった目には黒く妖しい光があった。まるで蝶を誘い込むかのような光であった。黒いだけでなく紫苑の色もそこにあった。
「ヨカナーンが私のところへ」
 ここで何かが落ちる音がした。
「落ちたわね」
「落ちたか」
 サロメと王は同時に声をあげた。

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