第一幕その三
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第一幕その三
「わかっていないのならいい。どのみち私は卑劣な刃には屈することはない」
「御言葉ですが陛下」
アンカーストレーム伯爵は言った。
「貴方の御身体は貴方一人のものではないのです。王として、祖国と多くの者達に応えなければなりません」
「それはよくわかっているつもりだ」
王は答えた。
「だからこそです」
伯爵は言う。
「御身を大事にされて下さい。危険を避けることもまた祖国と民に応えることです」
「応えること」
「はい」
彼は言葉を続けた。
「神と民の愛を受けて護られていても憎しみは時として愛に先駆けますから」
「だから私に用心せよと。そう言いたいのだね」
「恐れながら」
「わかった。だが心配は無用だ」
王はここで伯爵を見た。
「私には君がいる。そして愛する民達が」
「陛下」
伯爵だけでなく客達もそれに声をあげた。
「諸君等が私を護ってくれているから。それは意には介してはいない」
「では陛下は」
「私が恐れるのは。諸君等の期待を裏切ることだ」
彼は啓蒙君主としてこう言ったのであった。
「それだけはあってはならない。私は常にそれだけを考えている」
「その為にスウェーデンがおかしくなってもか」
「愚かな話だ」
二人の伯爵はそれを見てまた囁いていた。彼等にとってみればかつてのスウェーデン、グスタフ=アドルフやカール流星王の頃の祖国がいいのであろうか。それがもう遥かな昔のことだとしても。
「陛下」
そしてまたオスカルがやって来た。また恭しく一礼する。
「主任判事がお目通りを願っておられますが」
「今かい?」
「はい、どうやら火急の用件とかで」
「わかった。では通してくれ」
「はい」
オスカルに連れられて厳しい顔立ちに厳しい服装の判事がやって来た。まずは王に対して機械の様な堅苦しい動作で一礼した。
「陛下、御機嫌うるわしゅう」
「堅苦しい挨拶はいい。それで用件とは」
「はい、こちらです」
そして一枚の公文書を彼に差し出した。
「御覧下さい」
「うむ」
王はそれに従い文書を受け取った。そしてそれを読んだ。読んでから言った。
「女を追放。尋常じゃないな。どういうことなんだい?」
彼は判事に問うた。判事はそれに対してやはり堅苦しい動作で答えた。
「このアンヴィドソン夫人という女は危険な女ですから」
「占いをしているからかい?」
「それで充分だと思われますが」
判事は言う。啓蒙主義が広まり、フランス革命の中にあったこの時代でも魔女狩りや異端審問はまだ残っていた。十九世紀でもまだ行われていた程である。
「彼女の周りには多くのいかがわしい者が集まり、そして薄暗い洞窟に潜みそこで常に何かを囁いております」
判事は続ける。
「その様な者を置
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