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仮面舞踏会
第五幕その四
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「私が嘘をついたことがあるかい?」
「いえ」
 彼はそれを否定した。
「そうだろう。では私の言うことはわかるね」
「はい」
 そして頷いた。今彼は再び王の言葉を聞く気になれたのであった。
「私は彼女を愛した。だが純潔は汚さなかった」
 王は言う。
「それが真実だ。そして私は君達を遠い国に送るつもりだった」
「異国に」
「大使としてな。そしてもうそれは決定している」
「そうだったのか・・・・・・」
「何故それを私達に」
「言おうとした。だが」
 この結果になった。全ては無慈悲な運命のままに。
「もう全ては遅かったのだ。けれど君達は旅立ってくれ」
 二人に対して言う。
「遠い国へ。いいね」
「はい」
 二人は頷いた。赦されたのだ。
「陛下」
 オスカルが王に声をかける。
「もうこれ以上は」
「いや、いい」
 だが王はその制止を振り切った。
「私はもう助かりはしない。それはわかっている」
「そんな・・・・・・」
「だからよいのだ。ならば最後まで王として生きる。そして」
 その額に最後の汗が流れていた。
「王として死のう。今回の事件は全ての者を無実とする」
「全ての者が」
「これは運命だったのだから。そう、運命だった」
 あの占い師に誘われた運命だったのだ。人では逃れることのできない運命であったのだ。
「その運命のままだったのだ。何もかも」
「何と惨い運命か」
「人はそれに従うしかない。そして今私はそれに従う死ぬ」
 顔に浮かぶ死相がさらに強くなった。
「愛する民達よ、そして祖国スウェーデンよ」
 最後の言葉を口にした。
「さようなら。永遠に」
 そして目を閉じ頭を落とした。全てはそれで終わりであった。
「何と恐ろしい夜か。そして」
 皆呟いた。
「惨たらしい運命か」
 誰も運命からは逃れられはしない。王ですらも。そして皆その中で迷い、彷徨うのだ。それが人間の弱い心であり宿命であるのだから。


仮面舞踏会   完


                   2006・3・12

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