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仮面舞踏会
第四幕その三

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第四幕その三

「ここにいてくれ。そして自分で決めなくてよい」
「えっ」
 夫人はそれを聞いて青い顔を動かした。だが決して喜んではいなかった。
 夫の顔を見たからだ。その顔は暗く笑っていた。よからぬことを考えているのは明らかだったからだ。そんな彼を見てとても気が晴れるものではなかった。
「まずはこの壷にだ」
 伯爵はそう言いながら三切れの紙に何かを書いていた。そしてその後でその紙を丁寧に折って壷の中に入れた。
「紙を入れた。この中から一つだけを取りなさい。私が御前に与える罰はそれだけだ」
「わかりました」
 断ることはできなかった。夫の言葉にはえも言われぬ暗い力があった。それに従わずにはいられなかったからだ。
「それでは」
「何をするつもりだ」
「これは天の配剤だ」
 伯爵は暗い顔のまま二人に対して言った。
「彼女に選ばせる。誰がやるのかをな」
「成程」
「これならいい」
 二人もこれに納得した。下手に揉めるよりも事情をよく知らないであろう彼女に選ばせることに。それで選ばれればまさにそれこそ配剤であるからだ。
 夫人は壷の中から一枚の紙を取り出した。伯爵は妻に問うた。
「あの」
 そこで妻は問うた。
「ここには一体何が」
「御前は言う通りにすればいいだけだ」
 伯爵は暗い、それでいて何かが燃える声で返した。
「言われただけにな。よいな」
「はい」
 夫人は頷いた。だが彼女は感じていた。夫が自分を何か血生臭い仕事に加えようとしているということに。だがそれにあがらうことはもう出来なくなっていた。まるで運命に導かれるかの様に。
「そしてだ」
 伯爵は妻に問うた。
「そこには誰の名が書かれているのか」
「貴方の御名前が」
 妻は夫に顔を向けて答えた。
「貴方の御名前が書かれています」
「そうか、神は私を選び給うた」
 彼は暗い笑みを浮かべて言った。
「私をな。これで納得してくれただろうか」
「うむ」
「確かに」
 二人はそれを認めて頷いた。
「これであの男を倒す者は決まった」
「後は何時それを行うかだ」
「まさか」
 夫人はそれを聞いてその顔をさらに青くさせた。
「私で異論はないな」
「運命の女神が決めたことならば」
「我等に異論はない」
「よし。では問題は何時それを行うかだ」
「間違いないわ」
 夫人はこの時夫がチラリと王の肖像画を見たことで彼等が何を考えているのか悟った。
「あの人は」
「よし」
 伯爵は王の肖像画から顔を戻し夫人に声をかけてきた。
「使者はオスカルだったな」
「はい」
 為す術もなく頷く。
「すぐに連れて来てくれ。いいな」
「わかりました。それでは」
 夫人はまた頷いた。そして扉を開けオスカルを招いた。

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