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ヴァレンタインから一週間
第4話  ゲーム
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室内に響く。
 他に雑音の類はなし。ここがマンションで有るのならば、左右にも、そして、上下にも同じような部屋は存在しているはずなのに、物音はおろか、一切の生命体の気配を感じる事は無かった。

「そして、シルフが言うには、俺が行った事が有る場所が、ここには存在しないと言った」

 もう、ここまで告げたら、誰だって判るでしょう。
 ゆっくりと息を吐き出し、そして呼吸を整える。但しこれは、別に勿体ぶっている訳では無く、俺自身の覚悟を決める為の儀式。
 異界に流されて仕舞った俺が、覚悟を決める為に必要な儀式。

「この世界は、俺が産まれてから十五年間育って来た世界ではない、と言う事やな」



 再び、長門の対面に腰を下ろした俺。その俺を、無言で見つめる長門有希。

 しかし……。現状では、どうしようもないのですが。
 俺の魔法では、俺自身を確実に、俺の生まれ育った世界へ帰る道を開く事は出来ません。

 何故ならば、俺には、向こうの世界に、俺が強く因果の糸を結んだ存在は居ませんから。
 友人や仲間は居ます。仙術の師匠も。しかし、兄弟は初めから。
 そして、両親も既に存在しては居ません。まして、恋人など……。

 更に、この目の前の少女との式神契約を交わして仕舞った以上、彼女との契約を解除しない限り、俺の結んだ因果の糸は彼女との間の物が強くなり、何度、(次元孔)を開こうとも、彼女の目の前に道が開かれる事と成って仕舞うと思います。

 ……やれやれ。少しウカツな行為だったのかも知れませんが、それでも、過ぎて仕舞った事を悔やんでも仕方がないですか。そう考えた後、当座の活動資金。つまり、ズボンの後のポケットから取り出した財布の中身の確認を行う俺。
 ……福沢諭吉が二人。新渡戸稲造が一人。夏目漱石が三人。後は、小銭が幾らか。

 しかし、流石にこんな時間に泊まる事の出来る宿を確保するのは難しい……でしょうね。
 まして、銀行のカードなどは、間違いなく使用不能。

 これでは、何時、帰る事が出来るか判らない現状では……。
 それに、一応、貴金属を手に入れる方法は有るのですが、その貴金属を現金化する術が、今の俺には有りませんし……。流石に、見た目が完全に未成年の俺が、貴金属を現金化する店舗に(ブツ)を持ち込んで現金化出来る訳もないでしょう。

 ……それならば、先ずは、ハルファスを召喚して食糧の確保だけでも行いますか。

 取り敢えず、そう言う結論に到達した俺。それに、何にしても腹が減っていたら、ロクな考えも浮かびませんから。
 しかし、そんな、ある意味、現実逃避の極みのような結論に到達した俺に対して、

「ここで暮らせば良い」

 彼女に相応しい、小さな呟きが発せられた。そしてそれは、現状の
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