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仮面舞踏会
第三幕その三
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第三幕その三

「それよりもこの女性を頼む」
「それで宜しいのですね」
「うん。ただし、これは絶対に守ってくれ」
「それは」
「この女性のヴェールを何があっても取らないでくれ。いいね」
「わかりました」
 彼もひとかどの人物である。女性に対する礼節は忘れてはいない。だからこそ頷くことができた。
「そして一言も話をせず、一度も見ないで。ストックホルムの街まで送ってくれ」
「わかりました、それでは」
「街の城門に着いたならば君一人で反対の方に向かってくれ。いいね」
「はい」
「それだけでいいんだ」
 そして言い終わると夫人に囁いた。
「これでいいね」
「はい。それよりも」
 夫人は小声で王に言った。
「早くお逃げ下さい。もう一刻の猶予も」
「陛下」
 伯爵も声をかけてきた。
「どうしたんだい」
 王は伯爵に顔を戻して問うた。
「刺客が来ております。この墓場にまで」
「もうか」
「足音に囁き合う声が。ほら、白い光まで」
 それは剣の光であった。何の為の光か、最早言うまでもないことであった。
「謀反人達が」
 自分の命を狙っている。だが王は何故か彼等に対して然程憎しみ等を感じずにはいられなかった。
(私も同じだ)
 彼は心の中で呟いた。
(彼等は私を裏切り、私は友人を裏切った。結局は同じなのだ)
 自らの心を責めていた。しかし今は責めてもどうにもならなかった。
「陛下」
 伯爵がまた声をかけてきた。
「お早く」
「わかった、それでは」
 王は身を翻した。
「また会おう。ではその女性を頼むよ」
「畏まりました。では」
 夫人は無言で頷いた。伯爵はまだ彼女がその女性が自分の妻であることを知らない。今はこの女性が誰かなぞ彼にとってどうでもよいことであった。彼は無言で剣を抜いた。
「私の後ろにいて下さい」
 伯爵は約束通り女性を見なかった。彼女が自分の真後ろに来たことを感じると安心したように頷いた。そしてその時に刺客達が姿を現わした。
「処刑台のところにいるぞ」
「逃がすなよ」
 闇の中に男達の無気味な声が聞こえ辺りから剣を手にした男達が現われる。
「今夜こそあの男の最後だ」
「いいか、ぬかるなよ」
「はい」
 漆黒の服に身を包んだ男達が姿を現わした。彼等は皆その手に剣を握っている。
「大丈夫です」
 伯爵は女性が震えているのを感じてこう言った。
「ここはお任せ下さい」
 彼は全く臆してはいなかった。そして男達と対峙する。
「王よ」
 その男達の中から二人の男が出て来た。
「今宵が最後。御覚悟を」
「苦しまれることのなきよう」
 そこから出て来たのはホーン伯爵とリビング伯爵であった。彼等は執拗に王の命を狙っていたのであった。
「王か」
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