第三幕その一
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子がいる。夫と同じく悪い噂のない女性であった。
だがその彼女にも誰にも言えない悩みがあったのだ。それが自分への想いだとは。王はそれを知り最早我慢することができなくなっていたのであった。
「私は知ったのです」
「何を」
「言わずともおわかりだと思います」
彼は言った。
「だからこそ私は今ここに」
「仰らないで下さい」
だが彼女はそれを否定した。
「私はただ。忘れたいだけです」
「しかし」
「さもなければ私は死ぬまで、いえ最後の審判まで責め苦と恥辱に苛まれます」
彼女は言った。
「ですから一人に」
「いえ、それは出来ません」
だが王はそれを拒んだ。
「私の胸には貴女への永遠の愛が宿っているのですから」
「そんな」
「私は貴女が」
王は言った。
「必要なのです」
「私は忘れたいのです」
夫人は王の言葉を必死に振り切ろうとする。だが王はおいすがる。
「私は貴女のことを思いいつも苦しんできました。例えこの心臓が止まっても私の心は貴女のものです」
「陛下」
「妻をなくし。幾夜思い苦しんだことか」
王は続ける。
「この想いは日に日に膨らんでいくばかり。それを押し留めることはできなかった」
「ですが」
「天に祈りもしました。救ってくれ、と。ですがそれも適いませんでした」
「それでも私は」
「私の心はあの方のものです」
夫の。自分を愛してくれる夫のものだと。
「御許し下さい、私は」
「私は貴女でなければ」
王はなおも言う。
「駄目なのです。ですから」
「しかし」
「一言だけでも」
「一言だけ」
夫人はその言葉に動きを止めた。
「はい」
そして王はそれに頷いた。
「一言だけでも。お願いします」
「私の心を」
「そうです」
彼女の心はわかっている。だがそれを実際に耳で聞くのと聞かないのとでは全く違う。王は今耳で、いや心で彼女の言葉を聞きたかったのだ。
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