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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十五話 人を突き動かすもの
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その日が』
同感だ、これでフェザーン、地球、ハイネセン、全てが動くはずだ。地球教の尻尾を掴んで陽の当たるところに引き摺り出せるだろう。
帝国暦 489年 5月 31日 オーディン ミュッケンベルガー邸 ユスティーナ・ヴァレンシュタイン
「ほっとしたような表情をしていたな。どうも居辛かったらしい」
「お養父様」
養父は苦笑している。私には軍の事は分からない、戦場も戦争も……。けれど勝利を得るためには非常に辛い決断や苦しみが有るのだろうという事は分かる。養父が話した事は重苦しい内容だった。夫にとっても同じように感じられたに違いない。
「心配はいらん。昔からあれを見ているが兵に不必要な犠牲を強いる男ではないからな。出世欲や野心とは無縁の男だ。心配はいらん」
“心配はいらん”、養父は二度同じ言葉を使った。気休めではなく本心からだろう。
「お養父様は御辛いのですか」
「うん?」
「先程の御話しを聞いてお養父様は御辛いのかなと思ったものですから……」
私の言葉に養父は少し考える様子を見せた。
「辛いのではないな、重いのだ」
「重い?」
「自分が死なせた人間達、殺した人間達に、その死が無駄ではなかったと証を立てねばならん。それが重いのだ」
養父が私を見ている。そして言葉を続けた。
「その重さを誰よりも感じているのがお前の夫だろう。だから今、身を粉にして働いている。どれほど辛かろうと投げ出すことなく歩んでいる。皆があれを称賛してもあれにとっては何の意味もあるまい。あれにとっては義務であり贖罪であり誓約なのだ……」
「義務であり贖罪であり誓約……。お養父様、あの人は何時それから解放されるのでしょう」
「……それを決めることが出来るのは、あの男だけだ」
「……」
養父は視線を逸らしている。そして私もそれ以上は訊かなかった。怖かったからではなく訊く必要が無かったから。多分夫は一生それを背負って生きて行くのだろう、そして私はずっとその姿を見て生きて行くに違いない、それがどれほど辛かろうとも……。
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