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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始前
プロローグ「俺の名前は朱染千夜」
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だから!」
モカの頬がピクッと動く。不敵な笑みを張りつけて言い放つ。
「ほぅ……この私を抜くと。随分言うようになったじゃないか妹よ。千夜に稽古をつけてもらっているのはお前だけじゃないんだぞ?」
「でもでも、私の方が親身になって稽古してくれるもん! 頑張ったときはお菓子も作ってくれるし」
「それはお前が弱いからだろう。私はお前より強いからな。弟子を見守る師匠のように確かな絆で結ばれているぞ。それにお菓子どころか朝昼晩と三食作ってくれる」
優越感に満ちた顔で勝ち誇る萌香に心愛は頬を膨らませた。
「むぅ〜っ! ちょっとお兄さま! お姉さまばかりズルいわよ!」
「話を聞く必要はないぞ千夜。こんなのはただの子供のワガママだからな」
「ワガママってなによ! お姉さまも子供じゃない!」
「私は子供ではない! もう立派な大人だ!」
「大人は自分で大人だなんて言わないわよ!」
ギャーギャーとお互いの頬を引っ張り合う姉妹たちの横で、一人蚊帳の外だった千夜が呟いた。
「俺、もう行っていいかな……?」
返事がなかったのは言うまでもない。
それから十分後、ようやく姉妹のじゃれ合いも終わり、千夜は一茶のもとに向かっていた。一茶の部屋の前まで来た千夜は重厚な両開きの扉をノックする。
「千夜です」
「入りなさい」
中に入るとそこには当主の一茶、妻のアカーシャ、長女の刈愛、次女の萌香、三女の心愛と朱染家が勢揃いしていた。
これから始まる話は重大な内容だと推測した千夜は緊張で顔を引き締めながら口を開いた。
「俺に話があると聞いたんですが……?」
「うむ。千夜君がこの家にやって来てちょうど二ヶ月となる。唐突な話になるが、もし君さえよければ私の息子にならんかね? 君の実力や人柄はある程度把握できたつもりだ。千夜くん程の実力者ならば朱染の名を語っても良いだろう」
「は? 俺が一茶さんの息子に、ですか……?」
突然の話に目を丸くしているとアカーシャが優しく微笑みながら一歩前に出た。
「私たちの家族にならないか、と言ってるの。千夜くんは身寄りがないでしょう? もし貴方さえよければ、私をお母さんって読んでいいのよ」
そう言ってそっと千夜を抱き締める。
「となると、千夜は兄さんになるのか」
「あたしは始めからお兄さまって読んでるけどね」
「あら、始めてできた兄ね。嬉しいわ!」
萌香、心愛、刈愛もどうやら賛成の様子。
なすがままに抱き締められていた千夜は正気に戻ると、恐る恐るアカーシャを見上げた。
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