暁 〜小説投稿サイト〜
失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始前
プロローグ「俺の名前は朱染千夜」
[4/9]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
出す。


「なあ、千夜は帰る場所はあるのか?」


「いや、家族がいるのかも分からないからな……」


「だったら、傷が治るまでウチにいればいい。母さんもいいだろう?」


「ええ、もちろんよ。一茶さんの許可も取ってあるし、ゆっくり養生すればいいわ」


 それを聞いた千夜は驚いて顔を上げた。


「そんな、わざわざ助けてもらったのに、そこまでしてもらうのは――」


 しかし、続く言葉はアカーシャの差し出された指によって唇を押さえられる。


「そんな気遣いはいいの。貴方は怪我を治すことに専念しなさい。ヒトの好意は素直に受け取るものよ」


「は、はあ……。ありがとうございます?」


「ええ、どういたしまして」


 クスッと笑ったアカーシャの顔が綺麗だったと記憶している。





   †               †               †





 それから一カ月が経過した。始めはベッドの上での生活を余儀なくされた千夜だったが、驚異的な生命力で三週間後には屋敷の中を動き回れる程には回復した。


 朱染家がバンパイアの一族だと知った千夜だが、受けた衝撃は思ったより少なかった。むしろあっさりと受け入れたことに対し萌香たちが面食らう程であった。


 驚異の回復力を見せた人間の血を目当てに日々色々なバンパイアが千夜を襲った。バンパイアとは闘争の一族であり戦いとは殺し合いと同義。そのため血で血を洗うなど日常の一コマでしかない。まだ体力が回復していない当初は萌香が撃退し千夜の身を守っていたが、自由に動き回れる程の体力が回復すると、千夜自身が迎撃に当たった。


 これには萌香だけでなく、一茶やアカーシャを始めとした朱染家の皆が驚愕した。種族を越えての命のやり取りというのは確かに実在している。事実、妖怪を退治することを生業とした人間の組織も存在する。しかし、それは低級の妖怪が相手である場合だ。バンパイアのような大妖――それも『力』に特化した妖怪を人間が倒すのは、その手の生業の中でも装備を整えた歴戦のプロでも難しい。それをわずか十四歳の人間の少年が倒したのだ。それも素手で。


 バンパイアの世界――もとい、妖の世界は弱肉強食の世界。強いというだけで認められる世界だ。たとえそれが人間であろうと。撃退したバンパイアの数が二桁にまで及んだ時、既に千夜をただの人間と嘲笑うモノは居なかった。


 一月が経過し完全に傷も癒えた千夜は、これまで世話になったお礼がしたいと当主の一茶に頼み現在使用人として働いている。住み込みで働けるのは行く当てのない千夜にとって嬉しい誤算だった。


「ああーっ! 千夜お兄さま、やっと見つけたー!」

[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ