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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始前
プロローグ「俺の名前は朱染千夜」
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たのは椅子に腰かける萌香と包帯姿で眠り続ける少年だけとなった。


「お前は一体どこから来たんだ?」


 椅子の背もたれに両肘を置いて、その上にちょこんと顎を乗せた萌香は無垢な瞳でジーッと眠り続ける少年の顔を眺めた。


 よくよく見れば、少年の顔は整った造形をしていた。ダークブラウンの髪は後ろ髪だけ動物の尻尾のように伸ばされ、ゴムで無造作に一括りにされている。切れ長の目は閉ざされており、萌香より頭一つ分高い身体は子供特有の柔らかさと、男ならではの硬さを併せ持っていた。


「な、なんだ……なんか顔が熱くなってきたぞ……?」


 ジッと少年を見つめていた萌香の顔に次第と熱が帯びる。頬の火照りを鎮めるように手で仰いでいると――、


「う……んぅ……」


 少年の目が開かれた。まだ意識が覚醒していないのか半開きの目でボーっと天井を眺めている。


「起きたか。気分はどうだ?」


「――?」


 少年の視界の端から萌香の顔が飛び込んできた。蒼い瞳を持つ少年はしばし瞳で萌香の顔を眺めるとカサカサに乾燥した唇を開く。


「……だれだ……?」


「私は朱染萌香だ。君の第一発見者であり、怪我をしていた君を救った命の恩人だぞ」


「けが……いのちの、おんじん……?」


「まあ、それについては気にしなくていい。ところで、お前の名前はなんていうんだ? なんであそこで倒れていたんだ?」


「なまえ……」


 天井を見ながら黙考していた少年はやがて口を開いた。


「せんや……」


「え?」


「なまえ、せんやだ……。……だけど、それだけしかおもいだせない。けが? どうして……」


 壊れた機械のように自問自答を繰り返す少年を見て、萌香は深刻そうにうなずいた。


「これは俗に言う記憶喪失というやつか……? まあ、なにはともあれ母さんに知らせないと」


 駆け出した萌香は数分後に母を連れて戻ってきた。その頃には幾分落ち着いたのか、ベッドの上で上半身を起こし静かに窓から覗く月を見つめていた。


「よかった、目が覚めたのね」


「貴女は?」


「私はこの子の母親でアカーシャ・ブラッドリバーというの。せんやくんだっけ? どう書くの?」


「……千の夜と書いて千夜」


「格好いい名前ね」


 アカーシャは椅子をベッドの側に持って来ると腰掛けた。


「萌香から少しだけ貴方の事を聞いたわ。記憶がないんですって?」


「ええ……思い出せるのは自分の名前だけです」


 そう少年――千夜が答えると、アカーシャは哀しそうに視線を落とした。萌香がベッドに手をついて身を乗り
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